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2021年7月26日(月)

主張

「やまゆり園」5年

差別と偏見を許さない社会に

 障害者施設「津久井やまゆり園」(神奈川県相模原市)で入所者19人が殺害され、職員を含む26人が重軽傷を負った事件からきょうで5年です。「障害者は不幸をつくることしかできない」と残虐な犯行を正当化した元施設職員の許しがたい主張は、衝撃を広げました。とりわけ障害者や家族は、弱い立場の人を差別する社会の風潮の強まりの中で事件が起きたことに危機感を抱きました。障害者をおとしめる言動はいまもさまざまな分野で後を絶たず、当事者を苦しめています。誰もが人間らしく生きることができる社会へ力を合わせることがいまこそ必要です。

さまざまな分野に根深く

 元職員は昨年、死刑が確定し裁判は終わりました。しかし、障害者に憎悪と殺意を募らせた背景や、おぞましい殺人を計画・実行した動機について解明が尽くされたとは言えません。

 「障害者には生きる価値がない」という元職員の言動は、人の命に優劣をつけ、“劣った命”は排除しても構わないとする「優生思想」に他なりません。

 「やまゆり園」で障害者と接する仕事をしていた元職員がなぜ障害者を敵視し、ゆがんだ考えにのめり込んだのか。同園の施設設置者である神奈川県などによる突っ込んだ検証も欠かせません。悲惨な事件を二度と起こさないためにも「優生思想」が醸成された背景の究明を終わりにはできません。

 障害者への差別と偏見は社会に根深く存在しています。東京五輪開会式に作曲担当として参加したミュージシャン・小山田圭吾氏が過去に障害者を虐待し、それを自慢したインタビューが問題になり担当を辞任しました。同氏は1990年代の雑誌インタビューで、暴行に近い虐待を面白おかしく語り、障害者を見下していました。

 東京五輪組織委員会は小山田氏を起用しただけでなく発覚後も続投に固執しました。女性タレントの容姿を侮辱したり、ナチス・ドイツのユダヤ人大虐殺をやゆしたりした人たちを開会式などの企画担当に起用したことも批判を浴びました。人権意識の欠落を露呈した組織委の体質が問われます。

 少数者の人格を否定し、差別と偏見を助長する発言が政権党内から相次いでいることは重大です。LGBT(性的少数者)に関する法案づくりをめぐって、自民党国会議員の議論の中で「種の保存に背く」「道徳的に認められない」と異論が出され、「差別は許されない」という法案が提出できなかったことは、その典型です。3年前にLGBTカップルは「生産性」がないと雑誌に寄稿した議員も自民党は甘い対応しかしていません。個人の権利と尊厳をないがしろにする政治の転換は、差別のない社会をつくる上で重要です。

「自己責任」論でなく

 「生産性」や「経済効率性」で人の価値を判断する風潮のまん延は、少数者や弱い立場の人への差別と偏見を加速させることにしかなりません。障害者や高齢者を“社会のお荷物”と扱う危険な発想に通じます。この考えは社会に分断を持ち込みます。菅義偉首相が強調する「自助」や「自己責任」は、障害者などを支援するという国の責任を放棄する冷たい立場です。憲法を生かし、一人一人に基本的人権と個人の尊厳が保障される社会の実現が急がれます。


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