2021年7月17日(土)
主張
「黒い雨」再び勝訴
被爆者の苦しみ長引かせるな
原爆投下直後に降った放射性物質を含む「黒い雨」によって健康被害を受けたにもかかわらず、被爆者健康手帳を交付されなかった広島県内の84人が不交付処分取り消しを求めた訴訟で広島高裁は原告勝訴の判決を言い渡しました。昨年7月の広島地裁に続き、原爆がもたらした被害を幅広く認定し、国に救済を迫る画期的な判決です。被爆の実態を小さくとらえ、援護対象を狭めてきた被爆者行政が2度にわたり司法から違法とされたことを政府は直視すべきです。上告断念を直ちに決断し、全ての「黒い雨」の被爆者の救済に踏み出すことが求められます。
救済の道を大きく広げる
昨年の地裁判決は、政府が指定した区域外でも黒い雨を直接浴びたり、降雨域で生活したりした人は援護の対象になるとし、原告全員を被爆者にあたると認定しました。この地裁判決を今回の判決は維持・強化しました。1945年の原爆投下直後に行われた不十分な調査に基づいて援護対象を「線引き」し、幅広い救済に背を向け続けた国の誤りを改めて明確にしたことは極めて重要です。
高裁判決は注目される判断を示しました。一つは、被爆者に該当する基準について、「原爆の放射能により健康被害が生じることを否定できない」ことを立証すれば足りるとしたことです。地裁判決は「健康被害を生じる可能性」があるかどうかでした。高裁判決は被爆者に寄り添う方向を明確にして、救済ハードルを下げました。
地裁判決で、がんなど原爆の影響との関連が想定される病気が発症すれば被爆者と認定できるとしていたのに対し、高裁判決では、そのような病気の発症がなくても被爆者と認められる枠組みを示したことになります。
また、黒い雨に直接打たれていなくても、空気中に滞留する放射性微粒子を吸ったり、同微粒子が混入した井戸水を飲んだり、付着した野菜を摂取したりするなどして内部被ばくによる健康被害を受ける可能性があったことも高裁判決は記しました。
今度の判決は、国の責任で戦争被害を救済するという被爆者援護法の趣旨に沿って幅広く救済するという人道的な立場に立っています。被爆者の認定は科学的な裏付けが必要と主張し、救済対象を狭める国の姿勢については、最新の科学的知見は救済拡大のために用いるべきだと批判しています。
昨年の地裁判決の受け入れを拒み、原告・弁護団をはじめ多くの被爆者や国民の声に逆らって、裁判を長引かせている政府の責任はあまりに重大です。
上告断念の決断を急げ
政府は昨年の控訴の際、黒い雨の範囲などについて再検討する有識者の検討会を設置しました。援護対象の拡大の是非などを議論していますが、政府が「科学的知見」に固執するなどして、結論が出るめどはありません。解決先送りの「時間かせぎ」はやめ、黒い雨の範囲を拡大し、援護対象を広げることを急ぐべきです。
被爆者健康手帳の交付事務を受託している広島県と広島市も、国に上告を断念させる働きかけを強めるべきです。被爆者は高齢化しています。訴訟提訴以降も多くの原告が亡くなっています。菅義偉政権が、これ以上被爆者の声に逆らうことは許されません。