2021年6月30日(水)
五輪観戦の感染防止指針 観客まかせ
「直行・直帰」も体調把握も会場飲食も―
「安全・安心」 担保どこに
東京五輪・パラリンピック組織委員会が23日に公表した、観客の行動ルールを示すガイドライン。政府や組織委が掲げる「安全・安心な大会」の大前提になるものですが、新型コロナウイルスの感染拡大防止策の多くは観客まかせになっています。(丹田智之)
|
感染症の専門家や国民の批判が相次いだ競技会場内での酒類の提供について、組織委は世論に押されて販売を取りやめ、持ち込みも禁止しました。ただ、飲酒を禁じるのは競技会場内に限られます。観客が周辺の飲食店に立ち寄り「密」状態になれば、感染のリスクが高まります。
そうしたことを防ぐためにガイドラインは会場への「直行」と会場からの「直帰」を求めていますが、実効性は不確実です。組織委の担当者は「自発的に守っていただくことに期待するしかない」と言います。
観客の責任強調
競技会場では入場時にサーモグラフィーなどで検温を実施し、体温が「37・5度」以上の場合は入れません。
発熱症状がなくても、観戦する日の2週間以内に「だるさ(倦怠=けんたい=感)がある」「せき、喉の痛みなど風邪の症状がある」「臭覚や味覚に異常がある」との項目に一つでも該当すれば入場を断るとしています。
発熱症状のある観客がいた場合にどうするのか―。組織委の担当者は「現場の医療スタッフの対応によるので、マニュアル化するものではない」と具体的な説明を避けます。
公表時の会見では、「観客の体調を入場時にどうチェックするのか」との質問も出ましたが、担当者は「社会のルール」として「理解した上で来ていただきたい」と述べるばかり。観客の責任だというのです。
体調管理も自己責任が強調され、発熱や体調不良で来場を辞退してもチケットの払い戻しはできないとしています。高額なチケット代を無駄にしたくないと考え、体調が悪くても競技会場に行く人が出る懸念もあります。
観戦する日までにPCR検査を受けて陽性が判明した人は、発症日(有症状者)や検体採取日(無症状者)から10日未満は入場できないとされます。
間隔十分とれず
競技会場内の通路では飲食をグループでしないよう求めています。ただ、売店では飲食物を販売し、観客席で食べることができます。組織委の担当者は、観客が1~2メートルの間隔をあけて座ることは「現実的にはできない」としています。隣同士で話しながら食事をすれば感染のリスクは上がります。
これらのルールに違反した観客には「組織委の判断により入場拒否・退場措置をとることがある」としています。それでも不注意による違反行為は見逃されることが想定されます。
観戦後の検査で陽性反応が出た場合は、保健所に観戦日時と座席の位置を申告するよう求めています。そのためにチケットの半券やデータを「最低14日間」保管することを呼びかけています。
五輪では、一般観戦チケットだけで約272万枚が発行される見通し。これだけの人数にガイドラインが徹底できるか、不透明なままです。