2021年6月18日(金)
きょうの潮流
トレードマークの口元のひげと、やわらかな笑顔が印象的な人でした。先日、亡くなった「子どもと教科書全国ネット21」の代表委員、俵義文さん。教科書問題にささげた生涯でした▼初めてお会いしたのは30年ほど前、俵さんが出版労連で教科書対策部の事務局長をしていたころ。教科書制度の詳しいことなど何も知らない記者にいつも丁寧に教えてくれました▼教科書会社に就職した翌年の1965年、歴史学者の家永三郎さんが、国による検定は違憲だと教科書裁判を起こしました。「教育や教科書の内容に国が介入するのは許せない」と裁判支援に参加。その後、教科書ネットの事務局長を長年務め、侵略戦争を美化する「新しい歴史教科書」とのたたかいで各地を飛び回り、全国に運動を広げました▼活動の場は国外にも。日本から侵略された国の人々と交流を深め、日中韓3国共同編集の共通歴史教材出版にも尽力。根底にはいつも「日本を再び戦争をする国にしてはならない。そのためには真実を伝える教科書を」との思いがありました▼体調がすぐれない中、昨年末『戦後教科書運動史』(平凡社新書)を上梓(じょうし)。教科書に人生をかけた人でなければ書けない本です。侵略を美化する教科書の採択が激減したことに「私たちの教科書運動をさらに前進させる足がかりができた」と書いています▼日本軍「慰安婦」をめぐる教科書攻撃が再燃し、侵略美化教科書採択の動きは今も。俵さんの志は一層多くの人に引き継がれるべきときです。