2021年6月2日(水)
全仏棄権 大坂選手が投じた一石
選手の心の健康に光を
大事な問題提起を含んだ“告白”です。
テニスの全仏オープンで記者会見を拒否していた大坂なおみ選手が5月31日、大会を棄権すると表明しました。同時に2018年全米オープン以来、うつ状態で苦しんでいることを明かしました。
大坂選手は3年前の全米で初めて世界一の座を手にしました。しかし、その画期となる出来事と引き換えに、予想を超える重圧と不安に襲われ、心の均衡を保てない状況にまで陥っていました。
大坂選手は「私はもともと大勢の前で話すのが得意ではなく、世界中のメディアと話す前には大きな不安の波に襲われます」としています。
大会主催者はこの苦しみにたいし、罰金を迫るだけでなく、少しでも歩み寄ってくれたなら結果も違うものになったのではと残念でなりません。
しかし、この勇気ある告白が、スポーツ界に貴重な一石を投じたことも間違いありません。それは、選手の心の健康に目を向ける大切さです。
女子の一時代を築いたナブラチロワさんは大坂選手の発言を受け、こう述べています。「アスリートは体のケアについて指導を受けるが、精神面は見過ごされている。あなたのことを応援している」
選手も生身の人間です。心の健康の大切さをみなが認識し、支える態勢が必要です。大坂選手のように心の落ち込みを抱えている選手もコートで輝くことを望んでいるし、その権利があります。病にいたらない対策も含め、新たな事態に向き合うことが求められます。
記者会見のあり方も問われます。それが選手の責務というのはわかりますが、「アスリートの心の健康状態が無視されている」(大坂選手)ことは改善が必要です。
会見の出席も個々の事情を勘案し、柔軟な対応があるべきです。「よりよくする方法をツアーと話し合いたい」と前向きにつぶやく大坂選手。心の不調と対峙(たいじ)しつつも現状を変えようとする、その思いにみなでエールをおくりたい。(和泉民郎)