2021年5月24日(月)
主張
建設石綿の被害
一人も取り残さぬ救済制度を
建設現場で資材に含まれたアスベスト(石綿)を吸い込み健康被害を受けた各地の元建設労働者や遺族が提訴した「建設アスベスト訴訟」で最高裁は17日、国と建材メーカーの責任を認める判決を出しました。判決の確定を受けて菅義偉首相は18日、原告に謝罪し、国は原告団と被害救済のための合意書を締結しました。原告、家族、弁護団、支援者らの長年にわたる粘り強い運動が画期的な前進をつくりだしています。国は解決に背を向けてきた姿勢を根本からあらため、被害者を一人も取り残さない全面救済の仕組みを一刻も早く創設すべきです。
国とメーカーに賠償責任
安価で加工しやすく燃えにくいアスベストは、高度経済成長期などに大量使用されました。吸い込むと肺がんや石綿肺、中皮腫を発症する危険が問題になっても国の対策は大きく立ち遅れ、被害を広げました。発症まで数十年かかる長い潜伏期間から「静かな時限爆弾」とも言われています。
建設現場の作業に従事していた人の被害が急増し、2008年以降、国と建材メーカーを相手取った裁判が相次いで起こされ、地裁や高裁では国の責任を認定する判決が主流になりました。メーカーの責任や救済範囲などは裁判所によって判断は分かれていました。
最高裁は、国は1975年までにはアスベストの危険性を認識していたのに、労働者への防じんマスク着用を事業者に義務付けることなどを怠ったとして、アスベスト使用を原則禁止にした2004年までの29年間、国に違法性があったことを認めました。
当初、労働者として保護されないとされた「一人親方」については、「危険にさらされるのは労働者に限られない」として、労働安全衛生法上の国の救済の対象になるとしました。
メーカーが発症の危険について建材に警告表示をする義務を怠ったことも違法としました。複数の現場で作業したため、発症原因になったメーカーの建材の特定が難しい点についても、市場でのシェアや製造期間などから被害を推定できるとして、各社の不法行為を認めました。
建設アスベスト訴訟では最高裁として初めての統一判断となった判決で、国とメーカーの責任を明確にしたことは重要です。一方、屋外作業に従事した原告を救済対象にしなかったことは問題です。被害実態を直視し、救済の道を閉ざさないことが不可欠です。
最初の提訴から13年、相次いで起こされた訴訟は33件、原告は約1200人にのぼります。裁判の中で多くの元建設労働者が亡くなっています。「命あるうちの救済」は待ったなしです。
願いに沿った補償基金に
建設アスベスト被害者を救済する法律を今国会で成立させることは、政治の責任です。補償基金制度の創設では、国とともに建材メーカーなど関連企業が出資する仕組みにする必要があります。最高裁判決を踏まえ、メーカーにきちんと負担させることが求められます。アスベスト建材の建物解体の増加などにより被害は今後も拡大する恐れがあります。被害救済とともに、ばく露防止対策の強化、関連疾患の医療体制の整備や治療法の研究開発などにも国は役割を果たさなければなりません。