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2021年5月22日(土)

多様な性のあり方を認める社会どうつくる

LGBT差別なくす法整備を

性自認は個人の尊厳そのもの

 LGBT(性的マイノリティー)への差別解消をめざす法案をどのような中身にするのか、超党派の議員連盟で議論が行われ、このほど合意に達しました。日本共産党ジェンダー平等委員会責任者の倉林明子参院議員に、党の立場について聞きました。


日本共産党ジェンダー平等委員会責任者 倉林明子参院議員に聞く

写真

(写真)倉林明子党ジェンダー平等委員会責任者

 ――協議の経過は、どのようなものだったのですか?

 日本共産党など野党5党と1会派は、LGBT差別解消法案を2018年にすでに提出していました。一方、自民党など与党は今国会に入り、LGBT理解増進法案という名称の法案を提案してきて、この間、議連ですり合わせの協議が行われてきました。

 野党側からは、与党案が当初、「性自認」の代わりに「性同一性」という言葉を使い、「自己の属する性別についての認識に関する斉一性(せいいつせい)の有無又は程度に係る意識」と定義していた点について、「性自認」という用語に変更すべきだとの意見を伝えました。また、差別の解消を法の目的に明記するよう求めました。

世界の流れは人権モデルへ

 ――斉一性とは、耳慣れない言葉ですね。

 法制局の説明によると、それが同一であるということが「自他ともに」一様に認められる状態を意味する言葉だとのことでした。自己の性について、本人の認識ではなく「他の人の誰もが、その性別だと認めるかどうか」が基準になりかねず、問題があったと思います。

 また、「性同一性障害」という言葉に象徴されるように、性別違和は当初は「疾病」「障害」として扱われてきましたが、国際的な人権基準の発展の中で、性自認のありようを病気とみなす「病理モデル」から、本人の性自認のあり方を重視し尊重する「人権モデル」への移行が進んできました。性自認は、世界人権宣言や日本国憲法に定められた「個人の尊厳」に属するものとして尊重されるべきだというのが、今日の世界の流れです。

 ――合意案では「性自認」で統一されましたね。

 はい。「性自認」の定義は、「自己の属する性別についての認識に関する性同一性の有無又は程度に係る意識」という表現になりました。

 「性自認」とは“今日は男性、明日は女性”といった“気分”に基づく軽いものではなく、一定の連続性・一貫性・持続性を伴ったものであり、「自称」や「なりすまし」とは、明確に区別されるものです。

 差別の禁止や解消が明記されていないなど不十分さはあるものの、前進した案で合意できたと受けとめています。当事者団体の声や、多様な性のあり方を認め合う社会を願う国民の世論が、政治を動かしました。

 ――ただ、自民党は党内から反対論が出て了承を見送りましたね。

 はい。山谷えり子・元拉致問題担当相が、「体は男だけど(心は)女だから女子トイレに入れろ」などの「ばかげたこと」が起きている、などと、いま実際に差別に苦しんでいるトランスジェンダー(身体の性別と自分が認識する性別に違和がある人)の人たちが求めてもいない極論を言い、異論を唱えました。差別感情や偏見をあおるひどい暴言ですし、個人の尊厳とジェンダー平等を求める運動や世論を敵視するバックラッシュ(揺り戻し)の主張です。決して許さず、乗り越えていかなければなりません。

不安の声も…どう考えるか

 ――「この法律が成立すると、性自認だけに基づいて法的な性別変更ができるようになり、女性の安全が脅かされるのではないか」との不安の声が聞かれます。どう考えたらいいでしょうか。

 法的な性別変更の要件を定めているのは性同一性障害特例法であって、今回のLGBT新法ではないということは押さえておきたいと思います。

 その上でですが、先ほども述べたように、性自認とは「個人の尊厳」そのものです。性自認を、法律上の性別変更の根拠にすべきでないということになれば、トランスジェンダーの人たちの存在を社会の側が排除することになりますし、「そうしなければ女性は安全に暮らせない」という論理は、トランスジェンダーへの差別にもつながってしまいます。

 法律上の性別変更は、人生の重大な決断です。安易な性別変更がまかり通ってしまうかのような議論は、トランスジェンダーの人たちの現実の苦悩をあまりに軽く見ているのではないかと思いますし、果たして、女子トイレなどで犯罪をおかしたい男性が、そのためにわざわざ性自認を偽って法的な性別変更を行うでしょうか。自認と異なる性別で生きることでさまざまな不利益や激しい差別を被っているトランスジェンダー当事者からは、「そんな想定はナンセンスだ」との声が聞かれます。

 日本では現在は、法的に性別を変更するためには、生殖を不能とし、変更後の性別の性器に近似する外観をそなえる手術が必須とされています。しかし、体に深くメスを入れ、場合によっては命にもかかわる治療・手術を、法律上の性別変更の要件として強要することは、人権上、大きな問題があると考えます。

 “手術要件をなくすと、男性器のある人が女性だと名乗れば女性風呂に入ってこれるようになる”といった話をネット上などで目にして不安になった女性たちからの声が、党にも届いています。しかし、法律上の性別変更の要件と、女性専用スペースの利用のルールとは、別の話です。例えば浴場組合では、トランスジェンダーでも男性器がある人は男湯という規定を持ち、実際に運用しています。

 そもそも、静かに暮らしたい多くの当事者にとって、銭湯でトラブルになることは最も避けたいことだと聞いています。党にも、当事者から「男性器があっても女性風呂に入れるようにしてほしい」などの要望は届いていません。逆に、そのようなことが起こりうると言われることで一番苦しんでいるのが当事者なのです。

 女性が安心・安全に使えるスペースを確保するために知恵と手だてを尽くすことは当然です。同時に、トランスジェンダーの人たちも排除されず、人権を尊重される社会をつくることは、矛盾することではなく、統一的に追求しなければならないと思います。どちらも個人の尊厳とジェンダー平等に関わる、大切な課題なのですから。

 ――この問題をめぐっては、SNS上で激しいやりとりになっていて、心配です。

 そうですね。差別感情や、いたずらに不安をあおる情報を意図的に振りまくことは決して許されません。同時に、そうした情報に影響され、不安になっている人たちとは区別する必要があると思います。あおられている人も含めて、すべてを「差別者だ」と決めつけ、糾弾するようなやり方は、反発と分断を生むだけで、問題の解決にはつながりません。

 性の多様性を認め合い、誰もが「個人の尊厳」を尊重される社会をつくるために、ともに力を合わせましょう。


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