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2021年5月19日(水)

主張

入管法改定を断念

人権侵害加速を世論が阻んだ

 菅義偉政権が入管法(出入国管理及び難民認定法)改定案の成立を断念しました。事実上の廃案です。外国人への非人間的な扱いなど現行入管制度の欠陥を一層拡大する改定案の重大問題が浮き彫りになる中、国民の批判に菅政権が追い詰められた結果です。入管施設で命を奪われたスリランカ人の遺族の真相究明を求める訴えをはじめ、弁護士、文化人、若者らによるSNSの発信、座り込みなどが世論を動かし、国会の野党の共闘が力を発揮しました。声を上げれば悪政は止められます。外国人の人権と尊厳が守られる政治と社会を実現することが重要です。

死亡の真相隠しに批判

 入管法改定案をめぐって国民の不信と怒りを広げたのは、名古屋出入国在留管理局に収容中に死去したスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん=当時(33)=の事件と、真相究明に背を向け続けた菅政権の姿勢でした。昨年8月に留学ビザが失効して収容されたウィシュマさんは体調を崩し、食事もできないほど衰弱していたのに点滴などの処置はほどこされず3月に死亡しました。

 入管法の下で人命が失われた深刻な事件にもかかわらず、法務省・入管側は真相を明らかにしようとしません。施設外の医療機関の医師が点滴・入院を指示した診察記録があるのに、出入国在留管理庁の中間報告書には指示がされなかったと反対の記述になっていることが発覚しました。この食い違いについてまともに説明しない姿勢は大問題です。

 来日した遺族は「なぜ死ななければならなかったのか」と真相解明を求めています。二度とウィシュマさんのような犠牲を出してほしくないという願いは切実です。この問題は絶対に曖昧にできません。ウィシュマさんの収容状況を撮影したビデオの全面的な開示をはじめ、事実経過と責任の所在を明確にすることが、いよいよ不可欠になっています。

 長期収容などの人権侵害が繰り返され、2007年以降だけでも入管施設でウィシュマさんを含めて17人も死亡者を出している異常事態に根本的にメスを入れなければなりません。

 改定案の審議の中では、在留資格を失った外国人を全て施設に収容する「全件収容主義」の過酷な実態が厳しく問われました。裁判所の関与もなく、入管の裁量任せのやり方は世界に通用しません。国連の人権理事会などから何度も是正と改善を求められていることを政府は真剣に受け止めるべきです。難民申請の認定率があまりにも低すぎる日本の仕組みにも批判が相次いでいます。外国人の人権を守り、地域社会で共生していける制度へ切りかえることが急務となっています。

民意にこたえる政治こそ

 菅政権は5月に入ってたびたび入管法改定案の採決を狙いました。その企てを阻止し、ついに断念させたのは、急速に広がった国民の反対世論です。民意に逆らう政治は通用しないことは明白です。

 新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込めず、無為無策と後手対応を続ける菅政権への不信も高まるばかりです。メディアの世論調査では内閣支持率は急落しています。コロナ禍にもかかわらず数々の悪法に固執する菅政権をさらに追い込む世論と運動が重要です。


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