2021年5月14日(金)
主張
デジタル法成立
人権侵害許さない声広げよう
菅義偉政権が重要法案としてきたデジタル関連法が12日、参院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決され成立しました。行政のデジタル化を通じて集まる膨大な個人情報を大企業のもうけの種に利用する仕組みを拡大します。多くの市民団体や法律家が、プライバシー権を侵すとして反対していました。同法による人権、地方自治の侵害を許さないよう世論と運動を広げることが重要です。
本人同意ない提供やめよ
法律の基本理念に明記したのは、個人情報の活用による経済活動の推進や産業の国際競争力の強化です。ビッグデータを使った新たなビジネス展開をめざす財界、大企業の要求を受けたものです。
国会審議では、現行の個人情報保護法制のもとで、東京の米軍横田基地騒音訴訟の原告や国立大学生の情報が本人の同意なく民間利用の対象にあがっていたことが大問題になりました。国の行政機関や独立行政法人等が保有する個人情報を匿名加工した上で利活用する提案を民間事業者から募り、審査を経て提供する制度です。本人の同意は不要とされます。2017年度に始まりました。デジタル関連法はこの仕組みを都道府県、政令市に義務づけ、市町村にも広げます。
その一方、自己情報コントロール権について「明記は適切でない」(平井卓也デジタル改革担当相)という態度です。どんな自己情報が集められているかを知り、不当に使われないよう本人が関与する権利の保障こそ優先課題です。
デジタル関連法が進める「国と自治体の情報システムの共同化・集約」が地方自治を侵しかねないことも浮き彫りになりました。政府は自治体独自のシステム変更を抑制する立場です。自治体の施策を国の鋳型にはめ込むことで、医療費の無料化など、住民の要求にもとづく上乗せの障害となる恐れがあります。地域から声をあげていく必要があります。
9月に発足するデジタル庁には強力な権限が与えられ、国の省庁だけでなく地方自治体や準公共部門の予算配分やシステム運用にも口を挟むことができます。職員500人のうち100人以上が民間出身者です。政府は、企業に在籍したままでよいとしています。事務方トップのデジタル監も民間出身者が想定されています。同庁が官民癒着の新たな温床になることを許してはなりません。
デジタル関連法はマイナンバーと預貯金口座のひも付け促進も盛り込みました。マイナンバー制度は国民の所得、資産、社会保障給付を把握し、徴収強化と社会保障費の削減を進めるものです。さらに多分野の個人情報をひも付けすることにはプライバシー権を危うくする重大な問題があります。
個人の権利保障こそ
世界は、プライバシー権を保護する制度づくりに動いています。欧州連合(EU)は個人情報保護法である「一般データ保護規則」の施行に続き、AI(人工知能)の利用規則の法制化に乗り出しました。デジタル関連法はこうした流れに全く逆行しています。
プライバシー権をおろそかにした「デジタル化」では国民のための利便性向上になりません。自己情報のコントロール権、情報の自己決定権など個人の権利を保障するルールづくりが求められます。