2021年5月12日(水)
きょうの潮流
「せっけんの泡の一つひとつは、この世で一番美しい色に見える」。感性の豊かなナイチンゲールらしい表現です。きょう、生誕から201年。近代看護を切り開いた科学の目の持ち主でもありました▼イギリスがロシアを相手にしたクリミア戦争(1853~56年)で、献身的に傷病兵の看護にあたりました。しかし、衛生上の欠陥でコレラなどの伝染病がまん延。死亡の原因は意外にも、病気が負傷の7倍に及びました▼ナイチンゲールは、(1)戦場での負傷による死(2)防げたはずの伝染病による死(3)その他の原因による死に分類し、だれの目にも分かるようなグラフに視覚化しました。伝染病は防げたと、世論を喚起するためでした▼戦争が終わってから900ページもの報告書「英国陸軍の保健覚書」を作成しています。兵舎病院の汚物であふれた下水道と便所、衛生上の欠陥に対処できなかった実態を記し、陸軍当局が集めた記録や統計を使い、論証しました。陸軍病院の衛生環境の改善など制度の根本的改革を提案しました▼『親愛なるナイチンゲール様』を著した川嶋みどりさんは、衛生知識の不足と遺族への謝罪の気持ちがあり、「失われたいのちへの敬虔(けいけん)な祈りと、真実に向かう毅然(きぜん)とした姿勢は、現代医療のもとでも変わらないあるべき姿を示している」と言います▼コロナ禍の今は、いつにも増して真実に向き合い、科学にもとづく毅然とした姿勢が必要なときです。とくに、為政者に求められています。科学の無視などは論外です。