2021年4月16日(金)
主張
少年法改定案
厳罰で立ち直りの機会奪うな
菅義偉政権は少年法改定案を16日にも衆院法務委員会で採決しようとしています。同改定案は、18、19歳を「特定少年」と新たに規定し、厳罰化することなどが内容です。少年法改定の動きは、民法の成人年齢引き下げに合わせ、成人と同じように刑罰を科すべきだという議論から始まりました。しかし、飲酒や喫煙などが20歳以上のままにされたように、それぞれの法律の年齢区分は法律ごとの立法目的により決められるべきものです。拙速な審議は許されません。
「健全な育成」掘り崩す
少年法は戦後、日本国憲法の精神に基づいて教育基本法や児童福祉法と並んで制定されました。少年を保護の客体であると同時に、人権・権利の主体として、その保護と更生を図るのが目的です。「少年の健全な育成」を根本理念にしています。
成人の刑事事件とは異なり、全ての少年事件は家庭裁判所が審理します。家裁調査官は、少年と面接し、家庭環境や成育歴を調べます。そして、それぞれの少年について、立ち直りに向けて、きめ細やかな処分が行われています。
家庭裁判所は刑事処分が相当だと判断した場合、検察官に送致(逆送)する仕組みになっています。
2000年の法改定で、被害者の死亡という重大で明白な結果が発生している場合は、原則として逆送するとされました。改定案は、特定少年について、法定刑の下限が「短期1年以上」の罪にまで逆送の対象を大幅に拡大します。
さらに、起訴後、「推知報道」(実名、写真など本人を推定できる報道)を解禁しようとしています。ネット時代に、ひとたび名前などがさらされれば、半永久的に残り、本人や家族に深刻な影響を与えます。改定案は国家資格取得の制限も規定しています。立ち直りにとって重要な就職への重大な妨げとなります。更生の機会を奪うだけでなく、逆に再犯の危険性を高めます。
衆院法務委の参考人質疑では、法務省の法制審議会委員だった川出敏裕氏が「刑罰に近づいた」と述べました。元家裁調査官の須藤明氏は、刑事法の概念が持ち込まれることによって「保護処分の機能が後退する」と指摘しました。審議の中で、法案の矛盾と問題点は明らかになっています。
罪を犯すおそれのある「虞犯(ぐはん)少年」については、特定少年を保護の対象から外します。女子の虞犯比率は、男子を上回っています。女子高生らの性を売り物にするJKビジネスなど性風俗産業へのかかわりは、典型的な虞犯といわれています。
児童福祉法の保護は18歳未満で、18、19歳は含まれません。虞犯をきっかけとする保護処分が少年のセーフティーネットとして重要な役割を果たしています。法改定はそれを大きく損なうものです。
現場の支援の強化こそ
少年法は、司法だけではなく、教育や社会福祉にも広く関連しています。その機能は、法制定以来有効に働き、少年の再出発につながってきました。少年犯罪は減少しており、法改定する立法事実はありません。今やるべきは、厳罰化ではなく、少年法に携わる人や現場への抜本的な支援強化です。日本の未来を担う少年の基本にかかわる法律を不十分な審議で成立させてはなりません。