2021年4月9日(金)
主張
負担2倍化法案
医療受ける権利の制限許すな
75歳以上に新たな負担増を強いる「高齢者医療費2倍化法案」が衆院本会議で審議入りしました。医療機関の再編・統合を加速させる「病床削減推進法案」は同本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決され、衆院を通過しました。コロナ危機に学ぶなら、国民が安心して受診できる医療の仕組みの抜本的な拡充を急ぐべきなのに、二つの法案は完全に逆行しています。菅義偉政権による医療破壊を許さず、法案を廃案に追い込む世論を広げることが重要です。
重荷を強いる事実隠せず
「2倍化法案」は、現在原則1割の75歳以上の医療費窓口負担に2割を初めて導入することが柱です。単身世帯で年収200万円以上、夫婦世帯で同320万円以上を対象にし、約370万人が負担増となります。すでに「現役並み」所得で3割負担の人を合わせると75歳以上のほぼ3人に1人が2割以上の負担を求められます。
収入は限られるのに、病気やけがをしやすく受診機会が増えざるをえない75歳以上への影響は計り知れません。政府試算でも、膝の痛みの外来では年3万2000円も負担が増えます。関節症と高血圧性疾患で通院するケースでは年6万1000円の増になります。政府は施行後3年間、「経過措置」で負担を軽減するといいますが、いまより負担が重くなるのは変わりません。経過措置が終われば、容赦なく2倍の負担がのしかかります。経済的理由で受診をあきらめ、治療が手遅れになる事態は病状急変リスクの高い高齢者には命にかかわる大問題です。医療を受ける権利を事実上制限する法案を許すことはできません。
負担増の対象が、今回の収入基準でとどまる保証は全くありません。もともと財務省や財界は「可能な限り広範囲」を対象にすることを迫っていました。厚生労働省も年収170万円以上(約520万人)にする案を示し、昨年末、政府内では有力な選択肢として議論されました。「2倍化法案」では、対象者は政令で決めるとしています。政府へのフリーハンドです。ひとたび法律が成立すれば、政府のさじ加減で、「原則2割負担」へと道を開く危険は消えません。
菅政権は、「2倍化法案」を正当化する口実に「現役世代」の保険料負担の上昇を減らすことを持ち出します。しかし、今回の高齢者の負担増によって、現役世代の負担が減るのは年間720億円、1人当たりに換算すれば月30円です。最も削減されるのは国・自治体の公費980億円です。「現役世代の負担減」を口実にして公的な社会保障費の削減を推進する姿勢に道理はありません。この間減らしてきた高齢者医療の国庫負担割合を元に戻すことこそ急務です。
コロナ禍でも莫大(ばくだい)な利益を得ている大企業や大資産家に応分の負担を求め、高齢者をはじめ全ての世代の社会保障の大幅拡充に踏み出すことが求められます。
法案許さず命守る政治を
「2倍化法案」には国民健康保険料(税)の値上げに拍車をかける改悪案が盛り込まれています。コロナ対策で奮闘する公立・公的病院までも対象にベッド削減を求める「病床削減推進法案」は、日本の医療体制をますます弱体化させます。2法案の強行にストップをかけるとともに、国民の命と健康を守る政治への転換が必要です。