2021年3月24日(水)
主張
医療破壊の2法案
コロナに学ばぬ暴走を許すな
菅義偉政権が医療制度を大きく揺るがす二つの法案を国会に提出し、早期成立を狙っています。75歳以上に新たな負担を強いる「高齢者医療費2倍化法案」と、地域の医療機関の統廃合に拍車をかける「病床削減推進法案」です。新型コロナ危機は日本の医療体制の脆弱(ぜいじゃく)さを浮き彫りにしています。その教訓に学ぶなら、国民が安心して医療を受けられる体制の強化こそが必要なのに、それをいっそう弱体化する法案を出すことは本末転倒です。医療破壊の2法案の強行をやめるべきです。
病院の力をそぎ落とす
衆院で先週審議入りしたのは「病床削減推進法案」です。統廃合や病床(ベッド)数を減らした医療機関に全額国費で「給付金」を出し、削減を加速させる目的です。それを進める財源に消費税の増税分をあてるとしています。
社会保障費の大削減をたくらむ政府が盛んに持ち出すのは、病床数が多いから医療を「非効率」にし、公的医療費を「膨張」させているとの言い分です。そのため政府は2025年度までに救急を中心に約20万床を削減する方針を打ち出し、地域ごとに再編統合や病床削減を押し付けようとしています。しかし、住民に深刻な影響を及ぼす削減計画は政府の思惑通りに進みません。それを今度の立法化で一気に推し進めようというのです。
コロナ禍で病床がひっ迫し、各地で患者が行き場を失う状況に陥ったのは、医療機関に余力がなかったためです。すでにギリギリの地域医療体制のもとで、さらなる病床削減を迫ることは、力をそぎ落とすことにしかなりません。原資に消費税増税分をあてるということも大問題です。“社会保障のため”という増税の口実はいよいよ成り立ちません。
政府は19年、再編統合の対象として約400の公立・公的病院のリストを公表しました。ここには懸命にコロナ対応をしている病院も多く含まれます。コロナ禍でも政府はリストを撤回しません。地域医療を守る拠点の病院の機能を弱めることは許されません。
全国自治体病院開設者協議会などは昨年11月、政府への要望書で、コロナ禍を踏まえるなら再編議論を性急に進めるのでなく「単に効率性、経済性のみ」を追求するのでない医療体制の再構築を求めました。法案を議論した昨年12月の厚生労働省の会議でも、「地域医療崩壊を加速させる」(全国市長会)「再編整理の話を持ちかける、あるいは調整するなどということは全くナンセンス」(全国知事会)など厳しい意見が出されました。政府の乱暴なやり方に道理はありません。「病床削減推進法案」には、医師数の増員に背を向け、勤務医の長時間労働を温存・加速する内容も盛り込まれています。医療の拡充を願う国民の声に逆らう法案の強行は許されません。
国民的運動で阻止しよう
「高齢者医療費2倍化法案」も近く審議入りが狙われています。約370万人の窓口負担を1割から2割に引き上げることは、深刻な受診抑制を引き起こし高齢者の健康と命を危険にさらします。同法案には国民健康保険料(税)引き上げを誘導する仕掛けもあります。医療破壊をストップし、医療に手厚い政治へ切り替える国民的運動を広げることが急務です。