2021年3月23日(火)
新型コロナから命守る
大規模クラスター防ぐ
広島方式が成果 無症状者発見・保護へ戦略的大規模検査
新型コロナウイルス感染症を封じ込めるための大規模なPCR検査を―。感染再拡大(リバウンド)の危険が指摘される中、切実に求められる緊急対策です。広島県では全国に先がけ、無症状感染者を早期発見・保護する体制を整え、戦略的な大規模検査に取り組んでいます。「広島方式」の現場を取材しました。(土屋知紀)
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同県の大規模検査は感染者をいち早く発見し、感染の連鎖を断ち切るためのもの。県内5カ所(広島市2カ所、東広島市、福山市、三次=みよし=市)にPCR検査センターを設置し、飲食店・医療機関・介護事業所などの無症状の従事者や関係者を対象に、唾液によるPCR検査をしています。
誰でも何度でも
さらに広島市内の2カ所のPCR検査センター(流川=ながれかわ=、観音)では2月22日から対象者を拡大し、市内在住か市内勤務の人は誰でも何度でも検査を受けられます(1日先着500人)。
「この取り組みを全国でやったらいいと思います」―ランドセルを背負った女児を連れて流川検査センターを訪れた30代の男性=市内の会社に勤務=はこう話します。
検査センターの取り組みに加え、重症化しやすい高齢者や障害者が入所する施設では社会的検査を実施。職員を対象に定期的にPCR等検査を行い、入所者へは必要に応じ抗原検査をしています。県内475施設が対象で、15日時点で410施設、延べ1054施設で行われました。
感染拡大地(広島市、福山市、廿日市=はつかいち=市、海田=かいた=町、府中町、坂町の3市3町)ではこれまで月2回の職員へのPCR等検査を行った結果、早期に感染を突き止め大規模クラスター(感染者集団)へ発展することを未然に防ぐことができました。
感染症対応をしている医療機関の従事者に対しても、すでに43医療機関で月1回の定期的なPCR検査をしています。
さらに、県医師会の協力を得て県内の全市町で1000超の診療所や病院で県民向けにPCR検査を行っています。同県の1日あたりの検査能力は現在、民間検査機関をあわせ約1万3000件。県は今後さらに検査能力を高めていきたいとしています。
積極的受検訴え
新型コロナは、軽症なら風邪やインフルエンザ症状とよく似ており、花粉症との判別も困難です。同県ではチラシやホームページで「風邪かな?と思ったらまずはかかりつけ医か積極ガードダイヤルに相談を」と積極的な受検を勧めています。
広島県は、2月中旬に感染者が比較的多かった広島市中区の居住者・就業者を中心に、面的な無症状者の大規模PCR検査を試行実施しました。6573人が受検し、4人の陽性者が見つかり県が準備したホテルと病院で療養・治療しました。
同県の渡部滋新型コロナウイルス感染症対策課長は「行政検査では発見できなかった無症状感染者を、大規模検査で見つけられたのは意義があった」と強調します。
大規模検査へ交付金を
同県の大規模検査戦略の考え方は東京大学・合原一幸特別教授、中国上海師範大学・郭謙教授らの共同研究グループの「感染症数理モデル」に基づいています。
同モデルはPCR検査の集中実施で無症状感染者を早期発見・保護し、市中での感染連鎖を断ち切った方が、営業時間の短縮要請などによる社会的コストがかからず「社会経済へのダメージを軽減できる」としています。
同県が支出した飲食店への時短要請の協力金などの予算総額は3月末までで149億円。これに対し、PCR集中検査の実施費用は10億4千万円です。
PCR検査有効
同県健康福祉局の平中純総括官は「民間の力も活用しながらPCR検査センターを設置し大規模検査をした結果、感染爆発が収束に向かったことを経験し、PCR検査の有用性を認識した」と振り返り、「コロナ対策は陽性者の早期発見・早期保護・早期治療が最大の感染対策だ」と強調します。
「昨年9月、呉市の高齢者施設でのクラスター発生の時、無症状者も含めた全員検査が必要だと意識が変わりました。その後、県として積極的に広報しPCR検査をする人が増えた結果、感染者を捉えることができている。県と県民が一緒になった取り組みが陽性者を抑えられているのでは」と話します。
念のため検査
18日、広島市内の歓楽街の一角にあるPCR検査センター(流川PCR検査センター)にはPCR検査を受けるため無症状の人が次々と訪れていました。
『ひろしま県民だより』を持った60代の男性は、検査センターの入り口で氏名、住所、年齢や44項目のアンケートを記入し手指消毒の後、唾液を採取しました。「検査センター内に梅干しの写真が張ってあり、見ていたら唾液がたまったので検体採取はすぐに終わりました」
この日は風邪気味で仕事を休んだついでに受検したと言います。「新聞に『ひろしま県民だより』が入っており家族から『無料だから休みついでに受けて』と勧められました。もしコロナなら周りに迷惑をかけるため念のため」と話します。
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変異株の監視
同県では、さまざまな検査や積極的疫学調査で把握された県内の感染拡大の予兆や感染源の情報も、同県の健康福祉局へ集中する体制がつくられています。この体制が変異株の監視でも力を発揮しています。
把握した新規感染者の検体は、行政検査の場合は全検体を、民間検査の場合は感染経路ごとの検体を県か広島市の衛生研究所で、変異株PCR検査をしています。
渡部課長は「県内のどこかで感染拡大が起きるとその地域で面的検査を本格実施します。また、陽性者を早期探知する仕組みを利用し変異株PCR検査をしている」と話します。
例えば5人のクラスター(感染者集団)を民間検査機関の検査で把握した場合、そのうちの1検体を県か市の衛生研究所に送付し、変異株PCR検査をします。これにより、全感染経路で変異株の発生を捉えることができます。渡部課長は国に対し「これから第4波となり新たな取り組みが必要になった時に『これはダメ、これはいい』と制限するのではなく、幅広く施策を実施できる交付金を」と求めています。
繰り返し要望
7度にわたり大平喜信・日本共産党広島県コロナ対策本部長(衆院中国ブロック比例代表予定候補・前衆院議員)とともに県に対策を要望してきた辻つねお県議は「県の検査戦略はコロナ封じ込めに有効です。繰り返し求めてきた結果です。変異株がまん延する状況もあり、引き続き無症状感染者への検査を続けるよう働きかけたい」と話しています。