2021年3月5日(金)
生活保護「減額は違法」画期的判決
利用者の運動 世論広げる
保護基準は国民生活の“岩盤”
国が2013年8月から3回にわたり生活保護費を引き下げたことは生存権を保障する憲法25条に違反するとして、大阪府内の生活保護利用者42人が国などに処分の取り消しなどを求めた「生活保護基準引き下げ違憲訴訟」(いのちのとりで裁判)。大阪地裁は、保護費の減額は違法だとして2月22日に原告勝利の判決を出しました。原告団・弁護団や支援者らは「画期的判決」と評価しています。その意義は―。(岩井亜紀)
大阪地裁勝訴
「生活保護基準の裁判で勝利したのは、1960年の朝日訴訟以来です」。判決を受けて発表した声明で全大阪生活と健康を守る会連合会(大生連)は、そう表明しました。
大生連が加盟する全国生活と健康を守る会連合会(全生連)の前田美津恵副会長は「利用者が勇気をもって立ち上がり、自分自身も成長しながら大きな共同体をつくってきたことで、運動と世論を大きく広げてきました」と強調します。
国が引き下げ強行
この裁判は、国が平均6・5%、最大10%生活保護基準引き下げを強行したことを受けて起こしたものです。全都道府県で1万人以上の保護利用者が審査請求をし、うち29都道府県で1000人近くが原告になりました。
国はこの引き下げで、総額670億円もの保護費を削減。厚生労働省はそのうちの580億円については、「デフレ調整」としてテレビやパソコンなどの物価下落率が大きく影響する同省独自の指数を根拠にしました。
大阪地裁(森鍵一裁判長)は判決で、保護世帯ではこれらの品目に支出する割合が、「一般的世帯よりも相当低いことがうかがわれる」と指摘しています。
そのうえで、保護基準引き下げを決定した厚労相の判断は、「統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠いて」いると強調。判断の過程と手続きに過誤、欠落があるとして、厚労相の裁量権の範囲の逸脱または乱用があり、違法だと断罪しました。
同種の訴訟をめぐっては、名古屋地裁が昨年6月、原告の請求を棄却する不当判決を出しています。角谷昌毅裁判長は、「デフレ調整」として専門家の検討なしに厚労省独自の指数を根拠にしたことについて「過誤、欠落があったということはできない」としました。さらに、基準引き下げが「国民感情や国の財政事情を踏まえた」自民党の政策の影響を受けたものであるとしても、違法とはいえないと述べています。
不当判決への怒り
前田さんは、こう指摘します。「名古屋地裁判決は、生活保護利用者だけでなく低所得者全体に対する挑戦です。多くの人たちの怒りを呼びました。大阪地裁判決は、立ち上がり、声を上げれば変えられるということを明らかにし、支援者らも励ましています」
新型コロナウイルス感染症のまん延で社会保障の重要性が多くの市民のなかで実感されています。
生活保護基準は国民の生活を支える“岩盤”です。就学援助や最低賃金などさまざまな制度と連動し、市民生活全般に大きな影響を及ぼします。
29日には札幌地裁で同様の裁判の判決が出る予定です。前田さんは「さらに世論と支援を大きくしていきたい」と話しています。