2021年3月5日(金)
主張
「嫡出推定」の見直し
子どもの利益を守る視点こそ
法制審議会(法相の諮問機関)の部会が2月9日、親子法制に関する民法改正の中間試案をとりまとめました。子どもの父親を決める現行の「嫡出推定」制度が無戸籍者を生む要因になっていることについて、その解消を図るための検討内容が盛り込まれています。4月26日まで意見公募を行い、議論をさらに深め最終案を答申します。来年の国会にも改正案が出される見込みです。
無戸籍者の解決のために
「嫡出推定」は子の父親を早期に確定し養育や相続など子の利益を確保する目的で設けたとされます。しかし、この民法規定が逆に子の利益を害する場合があります。
現行規定では、離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定されます。婚姻が破たんしても離婚ができず、ようやく離婚が成立した直後に新しいパートナーとの子どもが生まれた場合も、前夫が父親と推定されてしまいます。
父子関係を否定する「嫡出否認」の手続きも、いまは父親側からしかできません。このため、前夫の暴力から逃げている場合などには協力が得られず、接触を避ける意味からも出生届を出せず、その結果、子どもが無戸籍になる例が生まれています。
法務省がつかんでいる今年1月時点の無戸籍者は901人です。うち7割超が「(前)夫の嫡出推定を避けるため」と回答しています。支援団体からは、実際には無戸籍者は最低1万人にのぼるとの見積もりが示されています。
戸籍がないと住民票取得などが困難で、就学、就職、結婚などの際に壁にぶつかります。2006年には、無戸籍のため修学旅行で使うパスポートがとれなかった高校生の事例が社会問題になりました。すでに15年が経過しており、一刻も早い解決が必要です。
今回の見直し案は、離婚後300日以内に生まれた子でも、その間に母が再婚した場合は例外的に再婚後の夫の子とみなすこととし、離婚後の再婚を女性に限って100日禁止する規定を撤廃するとしています。「嫡出否認」の訴えを、子どもや母親からも起こせるようにし、申立期間も「出生を知った時から1年以内」を、知った時・出生から「3年」または「5年」に延長する案が示されました。
この見直しでも、無戸籍問題は消えないと指摘されます。「離婚後300日」規定自体は維持されるため、再婚しなければ前夫が父と推定されるからです。「300日」に科学的根拠もありません。部会では規定撤廃の声が出ましたが、「法律上の父が確保されず、子の利益に反する」という意見もあり、引き続き検討するとされました。
婚姻が破たんして離婚したにもかかわらず、前夫を父と推定することが子どもの本当の利益にかなうでしょうか。法改正にあたっては、子どもの福祉と権利を守るという視点が貫かれるべきです。
ジェンダー視点で議論を
部会では、「離婚・再婚の増加、懐胎を契機に婚姻する夫婦の増加などの社会の変化」を踏まえ、無戸籍者の解消以外の観点からも制度見直しが必要との意見が出ています。差別的な意味合いを持つ「嫡出」概念や、法律婚かどうかで家族関係に差を持ち込む現行制度のあり方などについても、ジェンダー平等や多様な生き方の観点から、議論を深めることが望まれます。