2021年1月30日(土)
主張
コロナ法改定案
罰則すべて削除し補償明記を
新型コロナ対応の特別措置法や感染症法などの改定案が衆院で審議入りしました。感染症法改定案には当初、入院措置や疫学調査に応じない人に対する懲役や罰金の刑事罰が盛り込まれていましたが、世論と野党の反対を受けて刑事罰を削除し、行政罰の過料としました。しかし感染抑止の障害になることに変わりはありません。特措法改定案で営業自粛に応じない事業者に過料を科すことには「補償もせずに罰則か」と怒りの声があがっています。罰則はすべて削除すべきです。採決ありきで強行することは許されません。
専門家、現場の意見無視
衆院本会議で菅義偉首相は、入院を拒否して感染を広げた事例を示すことができず、「そもそも罰則導入の立法事実がないのではないか」という日本共産党の塩川鉄也議員の質問に答えられませんでした。
感染症法改定案で罰則を科すことには、公衆衛生を担う多くの専門家団体や現場が次々に反対の声明を発表しています。
全国保健所長会は厚生労働省に提出した意見で、罰則で脅して住民の私権を制限すれば「信頼関係を築くことは困難になり、住民目線の支援に支障をきたす恐れがある」と述べています。罰則を恐れて検査結果を隠す人が増え、感染コントロールが困難になりかねないというのが公衆衛生関係者の共通した懸念です。
誰がどのような理由で入院措置や調査を拒否したかを判断し、証拠を集めて処罰に向けた報告をする役割を保健所が負わされることに危惧が広がっています。衆院内閣委員会の参考人質疑で東京大学大学院の橋本英樹教授は保健所が「膨大な時間をとられる」「業務的にもたない」と訴えました。
感染症法は患者の人権尊重をはっきりと規定しています。ハンセン病患者の強制隔離やエイズ患者差別への反省からです。公衆衛生関係の団体はいっせいに発表した声明でこの歴史的教訓を今一度認識すべきだと強調しました。日本公衆衛生看護学会は罰則導入が「倫理的に重大な問題をはらんでいます」と指摘しました。
感染症法改定案について専門家の意見を聞いた厚労省の厚生科学審議会感染症部会で罰則賛成を明言したのは出席した委員18人のうち3人だけでした。11人が反対、懸念、慎重論を表明しました。にもかかわらず政府は「おおむね了承をいただいた」として、罰則を盛り込んだ感染症法改定案を国会に提出しました。専門家や現場の知見を聞きながら反対意見を無視する姿勢です。
憲法29条の趣旨を入れよ
特措法改定案は、緊急事態宣言が出されたもとで営業自粛や時間短縮に応じなかった事業者に過料を科す規定を設けます。緊急事態宣言で時短営業を余儀なくされた飲食業者からは「1日6万円の協力金では店がもたない」と悲鳴があがっています。必要なことは休業や時間短縮をしても事業を続けられる十分な補償です。
憲法第29条は財産権の不可侵を定め「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」としています。現行特措法には補償の規定がありません。新たに明記すべき条項は憲法のこの趣旨に基づく「正当な補償」です。罰則ではありません。