2021年1月16日(土)
主張
吉川元農水相起訴
農政を汚した責任極めて重い
自民党衆院議員だった吉川貴盛元農林水産相が、大手鶏卵会社前代表から農水相在任中に現金500万円の賄賂を受け取ったとして、東京地検特捜部は同氏を収賄罪で在宅起訴しました。前代表は現金提供の際、養鶏業界に有利になる政策実現を依頼したとされます。特捜部は、現金供与は農水相の職務によって便宜が図られることを期待した賄賂と認めました。農政を金でゆがめた吉川氏の責任は重大です。吉川氏は疑惑発覚後、議員辞職しましたが、国民に説明していません。菅義偉政権も事実解明に背を向けています。疑惑にフタをすることは許されません。
現金入り封筒を大臣室で
吉川氏は2018年~19年まで安倍晋三前政権で農水相を務めました。検察などによれば、同氏は、大手鶏卵会社「アキタフーズ」(広島県福山市)の前代表から、18年11月に200万円、19年3月に200万円、同年8月に100万円を在任中に受け取りました。うち2回の受け渡し場所は大臣室でした。前代表は、現金を封筒に入れて、部屋に置いていったなどとされます。大臣が公務で使う場所が、裏金授受の舞台になっていたという異常な実態に驚かされます。前代表は贈賄罪で在宅起訴されました。
前代表は、ストレスを減らす環境で家畜を飼育する「アニマルウェルフェア(動物福祉)」に基づく国際基準案が日本の業者の不利にならないよう、吉川氏に働きかけていました。また、政府系の日本政策金融公庫から養鶏業界への融資拡大を求めたとされます。
多額の現金を受け取った吉川氏が、農水相としてどのように権限を行使したのか。それが政策形成にどう影響していったのか。裏金で農水行政を汚した疑惑を徹底的に解明することは必要です。ところが菅政権は、国会での野党の追及に、事実を明らかにしません。吉川氏は農水相就任前にも、退任後にも前代表から1000万円以上の裏金を受領した疑惑が浮上しています。曖昧にできません。
重大なのは、吉川氏が菅政権と自民党の中枢にいた人物であることです。昨年の自民党総裁選では、菅氏の選対事務局長を務めました。自民党の二階俊博幹事長の派閥事務総長でもありました。議員辞職や離党だけでは済まされません。菅政権は、疑惑を徹底して調べるとともに、吉川氏の国会招致に応じるべきです。
アキタフーズをめぐっては、菅政権の内閣官房参与だった西川公也元農水相(元衆院議員)に対する現金供与なども明らかになっています。鶏卵業界についての一連の疑惑は、参院広島選挙区の大規模買収事件で逮捕・起訴された河井克行元法相(衆院議員)・案里参院議員への捜査の過程で発覚しました。カネまみれの実態を明らかにし、汚れた政治を一掃することが不可欠です。
疑惑隠しの政権を許すな
安倍前首相の「桜を見る会」疑惑も深まるばかりです。「森友学園」「加計学園」疑惑についても国民の疑念は払しょくされていません。吉川氏の贈収賄事件も、政治モラルを崩壊させ、国政を私物化し続けた安倍前政権の体質と無縁ではありません。安倍前政権と同様に、「政治とカネ」をめぐる疑惑隠しに終始する菅政権をこれ以上続けさせてはなりません。