2020年11月23日(月)
主張
「軍民両用」強要
日本学術会議の原点を壊すな
井上信治科学技術担当相が参院内閣委員会(17日)で、日本学術会議に対して、研究成果が民生にも軍事にも使われる「デュアル・ユース」(軍民両用)について検討を求めていることを明らかにしました。自民党幹部も同様の発言を繰り返しています。これは、学術会議への軍事研究の押し付けであり、学術会議の在り方を真正面から否定するものです。
戦争協力の反省が出発点
学術会議は1949年、科学者が戦争に動員された戦前の反省の上に、憲法がうたう「学問の自由」を確保し、人類の平和のために努力することを宣言して発足しました。翌50年に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明を、67年にも同様の声明を出しています。その背景には戦争協力への痛苦の反省と、再び同じ過ちが生じることへの懸念がありました。ここに学術会議の原点があります。
これを揺るがす事態が安倍晋三前政権のもとで持ち込まれました。防衛省がデュアル・ユース技術の積極的活用のために2015年度に創設した安全保障技術研究推進制度です。
各大学と学術会議は、この制度に応募するかどうかが問われるようになりました。学術会議は1年にわたる検討を経て、軍事的安全保障研究が「学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあること」を確認して、過去の2回の声明を「継承」する新しい声明を17年に採択しました。
声明は、「軍民両用」に関しては「研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、攻撃的な目的のためにも使用されうる」として、「研究資金の出所」について「慎重な判断が求められる」としました。そして、大学等の研究機関に対して、軍事研究と見なされる研究について審査する制度の設置を求めました。
防衛省の推進制度については、「将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って」いるとして、その目的が兵器開発にあることを見極め「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と厳しく指摘しました。
同制度への大学の応募は、15年度は58件にのぼりましたが、一貫して減少し、20年度は8件にとどまっています。防衛省は17年度に予算を6億円から110億円へと18倍化して、札束で学術界の切り崩しを図ろうとしましたが、思い通りになりませんでした。
自民党などは、学術会議が「学問の自由」を奪っていると攻撃していますが、各大学の見識にもとづいた判断を侮蔑するものです。
井上担当相の答弁によって、菅政権と自民党の狙いは、学術会議を変質させ、科学者を軍事研究に動員する体制づくりにあることが浮き彫りになりました。これは、二度と戦争の惨禍を繰り返さないと誓って制定された憲法9条を変え、日本を「戦争する国」につくりかえようとする動きと軌を一にするものに他なりません。
任命拒否を撤回させよう
違法違憲の任命拒否という暴挙を、学術会議の在り方に問題をすりかえ、軍事研究を押し付ける卑劣な企てを許してはなりません。
任命拒否を撤回させ、「学問の自由」と人類の平和に努力する学術会議の原点を守ることは国民的な課題です。