2020年11月2日(月)
学術会議会員任命 法解釈はっきり
“首相は拒めぬ”政府文書は一貫
菅首相が言う“根拠”にも疑念
日本学術会議の会員候補を任命拒否した問題で、菅義偉首相は、推薦の通りに任命する義務はないと強弁し、「政府の一貫した考え方だ」と繰り返しています。しかし、歴代政府が作成した任命に関する複数の文書は、首相に任命拒否できる実質的な権限はないとの法解釈を示しています。(岡素晴)
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「(学術会議会員を)必ず推薦の通りに任命しなければならないわけではない」―。衆参本会議での野党側の代表質問(10月29、30日)に対し、菅首相は何度も繰り返しました。その上で、内閣法制局の了解を得ており、政府の一貫した考え方だと言い張りました。
本当に“一貫した考え方”なのか―。
1983年と2004年、日本学術会議法が改定された際に政府の作成した文書の存在が人事介入の発覚後、それぞれ明らかになっています。
83年文書は、内閣法制局の「法律案審議録」に収録されている「日本学術会議関係想定問答」。首相の任命は「実質任命であるのか」との問いに、「推薦人の推薦に基づいて会員を任命することとなっており、形式的任命である」としています。
04年文書は、学術会議を当時、所轄していた総務省が内閣法制局に提出した同法改定案の説明資料です。「日本学術会議から推薦された会員の候補者につき、内閣総理大臣が任命を拒否することは想定されていない」と明言しています。
これらの記述から、少なくとも04年当時までは、首相は実質的に任命拒否できないという法解釈が一貫して維持されていたことになります。
一方、菅首相が言うように、推薦の通り任命する義務はないとの説明を裏付ける根拠はあるのか―。唯一、政府が示しているのは「内閣府日本学術会議事務局」名で作成された2018年11月13日付の文書です。
この文書は、首相が「推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」と記述しています。法制局も「異論はない」と返答していますが、当時の会長ら幹部が文書の存在を知らされていなかったと、複数の関係者が証言。正当性に大きな疑念が生じています。
信頼性にも疑問符が付いています。同事務局は「当時の担当者が文書を作成し、(内容を内閣法制局にはかるために)事務局長に口頭で了解を得た」と説明。その際の決裁文書すらないとしており、「行政手続きとしてそんなことはあり得ない」との批判が起きています。
任命拒否できないことは過去の資料で明らかなのに、“拒否できる”という根拠は疑わしいものばかりなのです。