2020年10月14日(水)
学術会議任命拒否 元官僚が語る
首相が名簿「見ていない」!? 経緯・情報知らないはずない
日本学術会議から推薦された会員候補6人を任命拒否した問題で、菅義偉首相が同会議から出された105人の推薦名簿を「見ていない」と断言したことが問題になっています。日本学術会議法では、形式的とはいえ会員を任命するのは首相です。官僚が勝手に会員候補を除外したり、首相が推薦名簿を見なかったりすることがあるのか―。官僚経験者に取材しました。(井上拓大、岡素晴、丹田智之)
「菅首相が最終的な結論に至るまでの経緯や、関係する情報を知らないはずがありません」。経済産業省で長く官僚を務めた古賀茂明・元内閣審議官は、任命権者としての首相の責任を強調します。
「官僚たちが上の指示もないまま自分のリスクで6人を除外するようなことは、考えられません。現に、加藤勝信官房長官は、事前に任命の考え方を菅氏に説明したと認めました」
古賀氏は、仮に菅首相が学術会議から推薦された105人全員の名簿を見ずに任命したとしても学術会議法に反することになると指摘します。学術会議法7条は「会員は、推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」と定めているからです。
任命拒否の発覚後、自民党内では学術会議を改変し、政府に従わせようとする検討が始まっています。古賀氏は「同会議への批判や『同会議を認めない、無くすべきだ』という声は、かなり前からありました」と話します。
「戦争の過ちを認めず『戦争は正しかった』と主張する自民党保守派と、太平洋戦争の誤りの反省のうえに設立された同会議とは根本的に相いれません。しかも、自民党の政策と違う提言をする組織ならなおさらです。だから同会議の存在そのものが許せないのです」
内閣府の元職員は「中曽根康弘首相(当時)の『政府が行うのは形式的任命にすぎない』との国会答弁からも首相に裁量権がないことは明らかだ」として、こう指摘します。「内閣府の事務方の判断で105人の推薦者を勝手に99人に絞ることはありえない。菅首相など官邸からの事前の指示があったと疑われる」
財務省元幹部は「そりゃあ推薦名簿を首相に上げるでしょう。首相による学術会議会員の任命が『形式的』という従来の解釈を変えることは可能。でも変えたのなら説明が必要だ。説明できないのは、問題があるからだ」と言います。
第2次安倍政権以前に旧防衛庁で幹部をしていた元キャリア官僚は、「事務方である官僚は書類や法解釈の整合性など法的手続きをきちんと整えて政治家の判断を受ける。これが法治国家の基本だ」と語ります。
元経産省職員の飯塚盛康氏(65)によると、省庁の基本的なルールとして、何らかの判断が生じる際は必ず担当者が上司に説明して相互に確認することになっていると言います。「今回の人事の決裁文書は最終的に首相の了承を必要としている。菅首相が人事について知らなかったとしたら、それは信じがたい」
飯塚氏は「構成が決まった名簿の中から何人かを外すのは、官僚の判断では絶対にできない。そんな勝手なことをしたら、公務員としての立場が問われることになる。ありえない。日本学術会議は法的にも独立性が確保された政府機関であり、法に反して任命を拒否することは許されない」と批判します。