2020年10月7日(水)
主張
学術会議人事介入
菅首相の開き直りは通らない
菅義偉首相が内閣記者会のインタビューの中で、日本学術会議が推薦した新しい会員候補のうち6人の任命を拒否した問題に言及しました。首相は「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動を確保する観点から、今回の任命を判断した」などと人事介入を正当化しました。6人を排除した理由は詳しく説明しませんでした。学問の自由を保障する憲法に違反し、日本学術会議法に反する前代未聞の暴挙への反省はありません。国民の不信や疑問にこたえない首相の姿勢が問われます。
抽象的な言葉をならべ
学術会議の人事介入で菅首相が記者との受け答えで見解を示したのは初めてです。しかし、時間は30分程度で、質問する記者の人数も極めて限られた不十分な形式のものでした。
首相は6人の任命拒否について「総合的、俯瞰的な活動を確保する観点」と繰り返し「これに尽きる」と強調しました。「総合的、俯瞰的な活動」とはなにか、中身について一切説明しません。抽象的な言葉でごまかすことは許されません。どんな思惑で6人を任命しなかったのか。経過を明らかにすることが首相の責任です。
任命拒否が、日本学術会議法の「推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」(第7条)との規定に反し、これまでの政府の解釈とも相いれない点についても「過去の国会答弁は承知しているが、それぞれの時代の制度の中で、法律に基づいて任命を行っている」と言い張るだけで、具体的な根拠は示しませんでした。無責任です。
従来の政府の立場は「推薦をしていただいた者は拒否はしない」(1983年の参院文教委員会での丹羽兵助総理府総務長官)、「政府が行うのは形式的任命にすぎません」(同年の参院文教委での中曽根康弘首相)という答弁などで明確に示されています。83年に内閣法制局がまとめた「日本学術会議関係想定問答」でも、実質的に首相に任命権がないことが明記されています。今回の菅首相の判断が、これらの政府解釈を乱暴に踏みにじっていることは明らかです。どこで、誰が、いつ、どのような形で法律違反の決定を行ったのか。徹底解明が求められます。
菅首相は「推薦された方をそのまま任命してきた前例を踏襲していいのか考えてきた」とも述べました。議論のすり替えに他なりません。「前例」とは、慣例的に行われてきた積み重ねのことで、法律に基づくルールとは次元が違います。法律を破った行為を“前例踏襲の見直し”などと正当化することはできません。
「学問の自由とは全く関係ない。どう考えてもそうではないか」と首相が言ったのは、開き直りです。任命拒否は、学術会議の独立性と自主性を掘り崩すもので、それは学者・研究者の研究活動の萎縮につながります。憲法23条違反の重大な行為への自覚も反省もない首相の態度は重大です。
6人の任命拒否は撤回を
任命拒否の撤回を求めるネット署名は10万人を突破し、広がり続けています。幅広い学者・研究者の団体が声明などで抗議の声を上げています。JNNの世論調査では任命見送りは「妥当でない」が51%で「妥当」24%を大きく上回りました。菅政権は国民の声を聞き、違憲・違法の人事介入を撤回し、6人を任命すべきです。