2020年10月5日(月)
橋下徹氏「軍事研究の禁止こそ圧力」と暴論
「学問の自由」は国家権力からの自由
科学者コミュニティの自律性侵すな
元大阪市長の橋下徹氏は、日本学術会議が推薦した会員を首相が任命拒否した問題について1日、自身のツイッターに「学術会議は軍事研究の禁止と全国の学者に圧力をかけているがこちらの方が学問の自由侵害」と投稿しました。
橋下氏が言う「圧力」とは、防衛省が将来の武器開発に役立つ研究に資金を提供する「安全保障技術研究推進制度」に対し、日本学術会議が2017年の声明で「政府による研究への介入が著しく、学術の健全な発展という見地から問題が多い」と指摘し、軍事研究に協力しないよう呼びかけたことを指したもの。しかし、橋下氏の言い分は「学問の自由」とはなにかをわきまえないものです。「学問の自由」とは、研究・教育への国家権力の介入からの自由だからです。
学術会議の2017年の報告書は、「人権・平和・福祉・環境などの普遍的な価値に照らして研究の適切性を判断し」、自己規律を通じてそれらの価値の実現を図ることが「科学者コミュニティの責務である」と指摘。
その研究が適切かどうかを「学術的な蓄積にもとづいて科学者コミュニティが規範を定め、コミュニティとして自己規律を行うことは、個々の研究者の学問の自由を侵すものではない」としています。
さらに科学者コミュニティが何より追求すべきなのは学術の健全な発展であり、それを通じて社会の負託にこたえることだとのべます。軍事研究を目的にした資金に依存していくと、やがてその資金がないと研究が続けられなくなり、研究の公開が妨げられたり、研究テーマに規制を受けるなど研究の自主性・自律性・公開性への国家による介入を招き、長期的には学術の発展にゆがみをもたらします。
それは、戦前、京都帝国大学の刑法学の滝川幸辰教授が、著書の内容を「危険思想」とされ免官された滝川事件や、憲法学者の美濃部達吉・東京帝国大学教授が、その学説を「国体を破壊する思想」とされ公職を追われた天皇機関説事件など、学術研究が国家権力によって弾圧され、その一方で動員された痛苦の歴史的教訓から導かれたものです。
橋下氏の論は、そうした歴史も、科学者の追求すべきものはなにかもわきまえず、科学者コミュニティの自律性を否定するものです。
(西沢亨子)