2020年9月1日(火)
侵略正当化する教科書 「育鵬社」不採択相次ぐ
市民ら「9年間の運動の成果」
来年度から中学校で使用される教科書の採択で、日本の侵略戦争を正当化する育鵬社の歴史教科書、子どもを改憲に誘導する同社の公民教科書が各地で次々と不採択になっています。同社の歴史・公民教科書は、どちらも採択数1万冊(採択率1%)に満たなくなる可能性が強くなっています。(井上拓大)
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今回の採択では、横浜市、大阪市などこれまで育鵬社版を使ってきた地区が相次いで不採択を決めました。育鵬社版を引き続き採択したのは、栃木県大田原市など一部にとどまっています。政治的思惑による教科書採択に対する批判が強まり、教職員の意見を尊重する流れが大きくなったことが、今回の結果につながりました。
子どもと教科書全国ネット21の鈴木敏夫事務局長は、市民や教職員らによる運動の成果を強調します。「教科書採択の透明性・公開制をめざし、教育委員会会議の公開を求め、教育現場の教員の意見や調査資料を尊重し、子どもに、どの教科書がふさわしいかを、教育的な観点で採択することを要求する取り組みが各地でありました」
今回、育鵬社教科書が9年ぶりに不採択となった東大阪市で運動を続けてきた市民団体「オール東大阪市民の会」の丁章(チョン・ヂャン)さん(52)は、「9年間の運動の成果が、やっと出た」といいます。
経営するアートカフェで教科書問題の勉強会を開き、講演会の開催や問題を訴えるビラもずっと配り続けてきました。「今年はコロナ禍の中でも、なんとか頑張って前川喜平さんを招いた教育の独立を考える講演会を開きました。採択会議当日には、市役所前で抗議行動を行い、集まった全員で会議を傍聴しました」と喜びを語ります。
安倍政権が狙う憲法改悪や、歴史修正主義に反対する運動などが高まったことも影響していると鈴木さんは指摘します。「こうした運動が、憲法改正に誘導しようとする教科書に対する批判を下支えして、育鵬社教科書採択への自民党などの介入の動きを低下させた」といいます。
鈴木さんは「まだ教科書採択の過程に不明瞭な点がある地区も少なくありません。公開制を引き続き要求したい。学校現場の教職員の意見を、どのようにくみ上げて反映させるかも重要な課題です。複数の市町村などによる共同採択区を分割し、より子どもたちの身近の地区採択、ゆくゆくは学校採択を実現していきたい」と語っています。
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