2020年8月30日(日)
安倍首相 反省なき退陣会見
不安定雇用拡大・増税・戦争法・改ざん…
28日に辞意を表明した安倍晋三首相。持病の再発を理由としていますが、退陣の根底には、「安倍政治」があらゆる分野で行き詰まり、政権運営そのものが立ち行かなくなった実態があります。ところが、安倍首相は辞任会見でも、自ら進めてきた路線への反省を最後まで示しませんでした。
暮らし
「20年続いたデフレに『3本の矢』で挑み、400万人を超える雇用をつくりだした」。安倍首相は会見でもこう繰り返し、自身の経済政策「アベノミクス」の「成果」を誇ってみせました。
しかし、その実態は、異次元の金融緩和で円安を加速させて株高を演出する一方で、非正規雇用や労働法制が適用されない不安定な働き方を増やしたにすぎません。しかも、安倍政権のもとで行われた2度の消費税率引き上げは、個人消費を冷え込ませ、実体経済を痛め続けました。
こうしたアベノミクスや新自由主義的政策のつけが、今年の新型コロナウイルスの感染拡大によって一気に露呈し、多くの人々を苦しめています。保健所や医療機関が疲弊したうえ、中小業者や労働者は苦境に立たされ、文字通り“生きるか死ぬか”の瀬戸際であえいでいます。
ところが、安倍首相は、辞任会見でも「死者、重症者の数も諸外国と比べ、低く抑えることができた」などと政府のコロナ対応をアピールするばかり。そこには、国民の苦悩に真摯(しんし)に寄り添う姿勢は見られません。
憲法
安倍首相が「必ずや私の手で成し遂げたい」と執念を燃やした9条改憲は、国民世論や野党の反対によって、一歩も進みませんでした。
安倍首相は会見で、「(改憲への)国民的な世論が十分に盛り上がらなかったのは事実であり、それなしに進めることはできないと改めて痛感している」と悔しさをにじませながらも、「新たな強力な体制のもと、さらなる政策推進力をえて、実現に向けて進んでいくものと確信している」と改憲路線の継承を呼びかけました。
そのうえ、安倍首相は9条破壊の安保法制=戦争法の制定を「安倍政権のレガシー(遺産)」と誇示。北朝鮮のミサイル開発などをあげ、「迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか」と違憲の「敵基地攻撃能力」の保有を次期政権のもとで進めることにまで言及しました。
9条破壊を許すのか、安保法制=戦争法を廃止し、立憲主義の回復・9条理念の擁護を進めるのか、という対決はこれからも続きます。
国政私物化
安倍首相が、“お友達”や側近を重用し、官邸が人事権を使って官僚の忖度(そんたく)を生み出してきたことも、国民の政治不信を極限にまで高めました。
しかし、安倍首相は会見で「政権を私物化したつもりは全くないし、私物化もしていない」と強弁。公文書改ざんを強要された財務省職員が自殺に追い込まれたことを問われても、「公文書管理は、安倍政権において、さらなるルールで徹底している」というだけ。安倍首相の答弁に合わせて公文書が改ざん・隠ぺいされ、官僚が無理な国会答弁を重ねてきた“国政私物化”については何の説明責任も果たしていません。
安倍内閣の支持率は軒並み下落し続け、8月の世論調査(NHK)では34%と、第2次安倍内閣発足以降、最低水準にまで落ち込みました。
自民党は、安倍首相の辞任会見を受けて後継選びのショーアップに必死ですが、民意に背く「安倍政治」そのものを転換させない限り、政治の行き詰まりは加速していくだけです。(佐藤高志)