2020年8月21日(金)
主張
食料自給率低水準
外国頼みを続けるのは危うい
農林水産省は今月、2019年度の食料自給率がカロリーベースで18年度より1ポイント上昇し38%になったと公表しました。小数点以下で見ると、過去最低水準だった18年度の37・42%から37・82%へ0・4ポイントアップにすぎず、世界でも異常な低さは変わりありません。
目標を実現するためには
世界的な新型コロナ感染拡大で食料の輸出規制に踏み切る国が相次ぐ中、6割以上が外国頼みという日本の食料供給の危うさが改めて浮き彫りになっています。
命の源である食料・農産物は緊急時だからといって、すぐに増産するというわけにはいきません。平素から自給率を高める努力が不可欠で、それを国政の柱に据えることがなにより重要です。
安倍晋三政権は30年までに自給率を45%に引き上げる農政の新計画を今春決定しました。1999年に制定された食料・農業・農村基本法には、食料の安定供給は「国内農業生産の増大を図る」ことを基本にし、自給率向上の目標を定めると明記されています。同法に基づき政府は、10年後に45%にするなどの計画を5年ごとに決めてきましたが、現実には目標との乖離(かいり)が広がるばかりでした。
新計画では、麦や大豆などの生産拡大、国産農産物の消費増大などを課題に挙げ、農地と新たな担い手の確保をはじめ農業の生産基盤の強化もうたいます。それ自体は必要な提起ですが、掲げるだけでは目標に到達できないことは過去の経過から明らかです。
食料自給率の向上を本気で実現するには、安い食料を外国から輸入するとして国内農業を切り捨ててきた歴代政府の農政の根本的な転換が欠かせません。
なによりTPP(環太平洋連携協定)や日米貿易協定など際限ない輸入自由化路線を見直すことです。外国産の輸入を野放しにしたまま麦や大豆などの本格的な増産は不可能です。食料主権を回復し、各国の多様な農業が共存できる貿易ルールの確立が必要です。
農業の「競争力強化」「大規模化」一辺倒の転換も急がれます。これまでの農政で、大規模経営が生まれる一方、中小の家族経営の多くが離農に追いやられ、担い手の減少、耕作放棄が深刻化する地域も少なくありません。生産基盤の強化をいうなら、大小多様な家族経営が維持できて、農村で暮らせる条件を政府の責任で整えるべきです。欧米諸国と比べて貧弱な価格保障や所得補償などを抜本的に充実することが不可欠です。
目先の効率や「安さ」を優先し環境への負荷や食品ロスを前提にした食の供給や消費のあり方も見直しが迫られます。化石燃料を多用する工業型農業や遠距離流通の推進でなく、地産地消、地域の食文化の普及などに思い切って力を入れる時です。「安全な食料は日本の大地から」の立場から米を含めて地域農産物の消費拡大の取り組みを広げることが急務です。
地球的な課題解決に貢献
コロナ危機は効率優先で突き進んできた社会や経済の仕組みを根本から改めることを求めています。食料自給率の向上と農業・農山村の再生はその重要な一環です。
それは、日本にとってだけではなく地球環境の保全、飢餓や貧困の克服など国連の定めた「持続可能な開発目標」(SDGs)の達成に貢献する道でもあります。