2020年6月7日(日)
政治考
「自己責任」脱し連帯へ
コロナ後展望する都知事選
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目前に迫った東京都知事選(18日告示、7月5日投票)をめぐり、市民と野党が幅広く共闘してたたかう新たな体制が構築されつつあります。
新型コロナ危機から都民の命と暮らしを守る政治の実現へ、年越し派遣村の名誉村長として人間を使い捨てにする政治とのたたかいの先頭に立ってきた宇都宮健児弁護士を候補者とする、画期的な共闘体制が前進しています。
苦難に心寄せ
共闘の候補者調整に奔走してきた立憲民主党の手塚仁雄東京都連幹事長は、「調整が難しくなるなかで、宇都宮さんがパンと手をあげた時、『なんで最初からこの人でまとまろうとしなかったのか』と悔いるような思いがこみ上げた」と語ります。
「小池都知事を倒したいという気持ちはみんなと共有してきたが、誰ならば知名度があって強いかという発想があった。でもそれは『劇場型』の小池知事の土俵に乗った発想だった」と振り返る手塚氏。「そうではなく困っている人々に寄り添い、光を当て、一貫してコツコツと準備を重ね、多くの市民が応援している人がいると気が付いた。コロナ感染の危険と経済危機の両面で、みんな苦しんでいる。宇都宮さんしかいないという気持ちに吹っ切れた」と語ります。
安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合・呼びかけ人の中野晃一上智大学教授は「宇都宮健児さんが立候補表明をし、かなりの立憲野党がまとまった。ようやくここまで来れた」と語ります。「国政での野党共闘との関係もあり、宇都宮さんは都知事選をたたかうのが難しい状況が繰り返されてきました。それでも、ぶれずに実直にやってこられた宇都宮さんを候補とし、私たちも含めて大きなまとまりがつくれたことは本当に良かった」
新しい価値観
3日、都内で開かれた市民と野党の共闘で小池都政の転換を求める「呼びかけ人会議」には日本共産党、立憲民主党、国民民主党、社民党、新社会党、緑の党など野党の代表が集まり、多くが宇都宮氏を応援してたたかうと表明。宇都宮氏も駆け付け、「コロナ禍は生存権、人権より経済効率性を優先する社会の脆弱(ぜいじゃく)性をあぶり出した」とし、都民の生存権を守るためにたたかい抜くと表明しました。
立憲民主党の長妻昭東京都連代表は、「新自由主義の脆弱性があらわになっている」とし、「宇都宮さんを応援し、東京都、ひいては日本の新しい価値観を花開かせたい」と発言。日本共産党の小池晃書記局長は、新自由主義を転換し「ポストコロナ社会へ『自己責任から抜け出してお互いに支え合う社会』を築くうえでも大きな意義を持つたたかいだ」「できるだけ広い市民、政党、政治家の皆さんとの共闘体制をつくりあげよう」と訴えました。
破綻の新自由主義から脱却
野党と市民 結集の基軸に
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日本共産党の志位和夫委員長は5月28日の記者会見で、同27日に宇都宮氏が都庁で出馬会見を開いたのを受け「基本的な政治姿勢、基本政策は私たちと共有できる」として出馬表明を歓迎すると同時に、「野党共闘でたたかう体制をつくるために努力したい」と表明しました。
各党間協議と各党における検討を経て、2日には立憲民主党が宇都宮氏の支援を調整。3日の「呼びかけ人会議」での支援表明となりました。
立憲民主党の国会議員の一人は、4年前に民進党として宇都宮氏の支持ができず、この間も宇都宮氏への支持が難しいとしてきたなかで、支援に踏み切った大きな背景に「コロナ危機のもとでの新自由主義への批判の拡大がある」と語ります。
支え合う社会
枝野幸男代表は、宇都宮氏が出馬会見を開いた翌28日、日本共産党の志位和夫委員長とのインターネット番組での対談で「新自由主義型の社会から抜けだそう」と述べ、自ら「枝野私案」を公表する意向を示したのです。志位氏は「ポストコロナを展望して、自己責任でなく人々が支え合う社会を目指し、豊かなビジョンをつくりたい」と提起しました。
29日に開いた記者会見で枝野氏は、「支え合う社会へ ポストコロナ社会と政治のあり方 『命と暮らしを守る』政権構想」を発表。枝野氏は、新型コロナ危機が「新自由主義的社会の脆弱(ぜいじゃく)さを突き付けた」とし、「安倍政権に不信や不安を抱きこれに代わる政権を期待するみなさん、自公政権に代わる政権を目指している幅広い皆さん」に向けた呼びかけだと述べました。
前出の立民議員は「行き過ぎた新自由主義からの脱却という流れが、国民にも定着しつつある。枝野私案は、それを一つの対抗軸として打ち出していくもの」と語ります。新自由主義の批判は、保守派も含めた幅広い立場に共通の流れとなっています。
コロナ危機が、医療・社会保障削減、労働法制の規制緩和を野放図に進めてきた新自由主義の破綻を世界中で露呈させました。
その激動の中で、立憲民主党の党首が、新自由主義からの決別を打ち出し、そのもとで新自由主義政治との対決を実践してきた宇都宮氏の支援を決断し共闘が発展するという、歴史的な流れが進行しています。
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市民連合の中野晃一氏は「4年前の都知事選のとき、当時、民進党の幹事長だった枝野さんは『(小池さんは)「改革」というばかりで人のことを幸せにしていない』といっていましたが、はっきり新自由主義と決別するとまでは言っていませんでした。今回、その方向をはっきり打ち出した」と指摘。「野党共闘の中で、共産党や志位さんとの信頼関係、共闘の深まりのなかで、もはや都知事選で共産党と立憲民主党が共闘しないことはあり得ないという前提があったと思いますが、宇都宮さんのところまで来たのは、政治家一人ひとりの考えも含めて深い蓄積の結果だと思います」と語りました。
他方、一部メディアからは、世論調査で7割ともいわれる小池都政への支持率を背景に、「小池知事優勢」との見方も出されます。
JX通信社が6月1日に報じた世論調査結果では、小池都政の支持率は69・7%でした。3月の調査から20ポイントも上昇しました。しかし、「支持」の中身をみると「強く支持する」は21・6%で、48・2%が「どちらかといえば支持する」です。感染対策が後手後手で、補償にも後ろ向きな安倍政権のもとで、知事として具体策を発令する小池氏がテレビに露出し、注目を集めた効果が大きいといえます。
しかし、小池知事のコロナ対策の実際はどうなのか。
対策後手後手
東京都のPCR検査体制もいまだ十分とはいえず、緊急事態宣言の解除後に感染者が再び増加傾向になるもとで、明確な対策は打ち出せないなどやはり後手後手の状況です。
休業要請した事業社への協力金の支給も、1日の段階で申請10万件に対し支給が2万件など遅れています。また、そもそも協力金支給の対象となる事業社が、都内の42万件のうち13万件にとどまるなど狭すぎ、補償に対する本気度が問われます。都立病院の地方独立法人化に固執するなど、新自由主義的な社会保障削減路線を、コロナ危機のもとで推進する姿勢です。
新型コロナから都民の命と暮らしをどう守るのか。医療・介護・検査体制をどうするか、雇用対策・事業者支援をどうするか、そしてその財源はなど、都民にとって死活的な論点が争われる選挙です。
宇都宮氏は5月27日に都庁で出馬会見を開き、(1)都の新型コロナ対策のたち遅れをただし、医療検査体制の充実、自粛休業要請とセットの補償の徹底(2)都立病院・公社病院の地方独立法人化の中止と体制強化(3)カジノ誘致計画の中止などを緊急、最重要の課題とするなど注目すべき政策を発表しています。本格論戦が始まれば、有権者の真剣な注目、高い関心を集めることは間違いありません。
立憲民主党の幹部の一人は「宇都宮氏は都政に最も詳しく、論戦力はとびぬけている。強い」と語ります。(中祖寅一)