2020年5月20日(水)
検察庁法改定 今国会断念
新たな民主主義発揚の動き
政治部長 中祖寅一
検察私物化の検察庁法改定強行を断念に追い込んだ世論のうねりと民主主義の底力―。一夜明け、主要各紙も「うねる民意 首相追い込む」(「東京」)など世論の勝利を指摘しています。同時に「これほどのうねりが起きるとは正直、予想していなかった」という論評が多いのも特徴です。
なぜこれだけのうねりとなったのか。興味深い数字があります。
与党が法案審議入りを強行した8日、衆院内閣委員会のインターネット中継の視聴アクセスは合計1万7804回でした。これが13日には8万3869回に急伸。通常は数千から1、2万と言います。さらに与党が出席を拒否していた森雅子法相が答弁に立った15日は、14万2562回という記録的数字となりました。
担当者は「13日は想定外のアクセスだった。15日には画質を限界まで下げトラブルに備えたが、きつかった」とのべ、予想を上回る関心の高さを指摘します。
8日の審議入り後、同日夜に「#検察庁法改正案に抗議します」のツイッターデモが始まりました。10日夜には投稿が470万に広がり政治と社会に衝撃を与え、世論の流れも激変しました。投稿はその後1千万を超えて広がりました。
政権に強い疑問
他方、改定案の発端となった黒川弘務東京高検検事長の定年延長の閣議決定(1月31日)と法解釈変更の違法性・違憲性は、すでに2月初旬から徹底して議論され、ツイッター上の批判もなかったわけではありません。
いまのタイミングで世論が激動したのはなぜか。
「これほど政治を身近に感じたことはない」―。テレビに映る市井の人々が異口同音にそう語ります。
新型コロナウイルス感染症がもたらす命と健康、暮らしと経済を脅かす戦後最大の危機に国は何をしてくれるのか。今ほど国と政治の役割が問われているときはありません。国民の政治への関心はいやおうなしに高まっています。
その中で、「自粛」を呼びかけながら休業補償には後ろ向きで、医療支援にも及び腰の政権が始めたのが、検察を私物化し民主主義を破壊する暴走でした。国民が協力して危機を乗り越えようと必死なとき、「この政権は国民のことではなく、自分のことだけを考えている」という強い疑問が生じたのは当然です。18日には、メディアの世論調査で法案への反対が多数を占め、内閣支持率が軒並み急落しました。
ツイッターデモ
高まる政治への関心のもとでも「フィジカルディスタンス」(体と体の距離)を求められるいま、集会やデモ行進を思うようにできません。コロナ禍でテレワークも普及し始めるもと、ツイッターデモは、新しい人も含む多くの人々が参加しやすい意思表現、世論喚起の手段として力を発揮。市民が自主的に取り組むインターネット番組も野党との連携を強めました。
元検事総長らも
世論のうねりの中、元検事総長ら代表的な検察OBたちが声をあげ「検察の力を殺(そ)ぐことを意図している」と警告しました。「政治との距離」を旨とする人々の異例の声明でした。
「民主主義の危機」を訴える検察OBの声明は、ツイッター参加者を含む多くの国民の胸を打ちました。俳優の小泉今日子さんも「泣きました。そして背筋が伸びました」とツイート。日本国憲法のもとで培われた戦後民主主義の力がにじみます。
コロナ禍という戦後最大の危機に、憲法を大本にした民主主義の激動が起き、安倍暴走をとん挫させました。安倍政権が戦慄(せんりつ)したのは、SNS活用も含めた新たな民主主義発揚の動きです。