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2020年5月12日(火)

志位和夫著『改定綱領が開いた「新たな視野」』

歴史的・理論的分析で「新たな視野」を解明

長久理嗣

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 3月14日に志位和夫・日本共産党委員長がオンライン中継で語った、「改定綱領学習講座」の講義録が出版されました。主題は「改定綱領が開いた『新たな視野』」。中国に対する綱領上の見直しが綱領全体の視野をいかに新しく広げたかを、8中総決定、第28回党大会決定をふまえつつ理論的に再構成した解明がなされました。

 本書は、改定綱領についての党大会決定を、より深く読み理解する上での必読文献です。党大会の決定と「学習講座」という性格の違いは当然としても、内容的には8中総、党大会決定とつながる“第三の報告”ともいえると、私は思います。

 それとともに、日本共産党の今日の綱領上の到達点を知っていただく書として、また昨年秋以来の綱領一部改定作業を通じての認識発展のプロセス、内容を率直に語ったユニークな書として、私たちの党に関心をもっていただける方々に広くおすすめします。

中国めぐる解明の深まり

 本書の魅力の第一は、綱領一部改定を第28回党大会の議題とした出発点である、中国にかかわる解明がいちだんと深まっていることです。

 8中総では中国の「この数年来」の動きをふりかえり、党大会では「2008~09年」ごろからの動きをふりかえっての報告がありました。講義では20年余の日中両党関係の歴史、その全経過にたちかえり、「節々」で何があり、どのように対応し認識を発展させてきたのか、「これまで公表してこなかった事実を含めて」、時系列的に、迫力ある報告がなされています。重要なのは、日本共産党が「中国に対する見方を決定的に変えざるをえない契機」は、2016年のアジア政党国際会議での体験だったとの指摘と、その詳細な内容です。

 中国でなぜ大国主義、人権侵害が深刻になったのか。党大会の報告では、中国自身の1981年の中央委員会決議と1956年の「人民日報」論文を引いて、その「歴史的根源」(自由と民主主義の課題の欠如。大国主義の歴史)が解明されました。志位さんは同じ文献をもう一度読み、講義で、中国の党がいったいどういう内容の「自戒」をしていたのかと、問題をさらに鋭くえぐり出しました。真理追求のねばりに敬服するものです。

 感慨を覚えるのは、ソ連覇権主義との闘争の半世紀にわたる「歴史的経験」から得た結論的認識についてです。「対外関係において社会主義の道に背く大国主義・覇権主義の行動を多年にわたって行っているものは、その国の国内においても社会主義をめざしていると判断する根拠はなくなる」――二つの大国に通底する総括的な判断としての重みがあります。

 日本共産党による覇権主義批判の大義を強調した部分で、「少なくない国」が「中国のふるまいへの批判はもちつつも、経済関係などを考慮して、言いたくても、なかなかモノが言えない状況」にあることも報告されています。単一の資本主義的世界市場のもとでの「今日の米中対立をどうみるか」という部分とあわせて、興味深く読みました。

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(写真)講義する志位和夫委員長=3月14日、党本部

21世紀論を歴史的・理論的に解く

 本書の魅力の第二は、綱領の一部改定によって、21世紀の希望ある動き、さらには資本主義を乗り越える展望に「新たな視野」をもたらしたことが、新鮮な事実と、歴史的、理論的な分析によって描き出されていることです。

 志位さんは、資本主義の体制と「社会主義をめざす探究」過程にある体制という「二つの体制の共存」論に「ピリオドを打った」ことについて、「寂しい」と思った人もいるかもしれないが、この抜本的な見直しは「寂しい」話ではない、「世界の見晴らしがグーンと良くなった。これが改定作業を進めた実感だ」と語っています。

 世界論にもたらした「新たな視野」とは、植民地体制の崩壊を20世紀の「構造変化」の中心にすえ、21世紀の「希望ある流れ」を導き出したことです。また、「資本主義と社会主義の比較論」から解放され、本来の社会主義の魅力を示すことが可能になったことです。

 これらにかかわる解明で特徴的なことは、国連会議の場をはじめ現場での体験に裏づけられた具体性です。他方で、歴史的、理論的な分析をしっかりと踏まえたものであるということです。「歴史的な分析」では、たとえば半世紀前の核不拡散条約(NPT)の出発から今日の核兵器禁止条約の実現にかかわる条約論です。8中総ではそのことについて、NPT「再検討」の舞台の「主役」が「一握りの核保有大国」から「世界の多数の国ぐにと市民社会」へと交代したという側面が語られました。講義では、NPTという最悪の差別的な条約から核兵器禁止条約という“宝石”がつくられたこと、この変化をうながしたものは植民地体制崩壊と100を超える主権国家の登場という「構造変化」であり、各国人民のたたかい、被爆者運動の大きな役割、「市民社会」の力の発揮であると解明されました。一つの国際条約をめぐる歴史の多面的分析として、興味深く読みました。

 「平和の地域協力の流れ」のなかで、「平和の地域共同体」=東南アジア諸国連合(ASEAN)についての歴史的分析も重要です。日本共産党は2014年の第26回党大会いらい、「北東アジア平和協力構想」を提唱してきましたが、こういう歴史に支えられている深い意味が伝わってきます。

 さらに、改定綱領には21世紀の希望ある流れとして、国際的な人権保障の新たな発展が明記され、そのなかでのジェンダー平等について、講義で詳細に論じられました。

 8中総結語でも、昨年11月の民青同盟大会の講演でも、党大会の報告でも、今回の講義でも、くりかえし強調されたことがあります。それは、綱領の世界論の根底に科学的社会主義の世界観、史的唯物論がすえられていることです。世界の流れの大局(本流と逆流)をつかむこと、日本共産党の変革路線と世界の本流との関係、これらの分析の根底にすえられた資本主義論を深めたいと思います。

社会主義への多様な“入口”が示された

 本書の魅力の第三は、世界論の結びで志位さんが、「改定綱領は、ジェンダー平等、貧富の格差、気候変動、帝国主義・資本主義の政治的矛盾の深まりなど、さまざまな新たな問題を“入口”にして、未来社会への道をより豊かに多面的に示すものとなった」と語ったことです。

 講義の内容自体が、真正面から未来社会への道を新鮮に示すことに成功していると思います。貧富の格差拡大の問題にかんしても気候変動の問題にかんしても、国連などの文書で「資本主義を乗り越えるシステム」が議論の視野に入ってくる可能性が示されています。この二つの問題で、『資本論』が解決の道筋、あるいは「手がかりとなる論理」をあたえているとの理論的考察にも注目しました。そして、それぞれの問題の民主的打開の運動に力をつくしつつ、「社会主義を語ろう」との呼びかけがなされています。

 アメリカの若い世代にとって「社会主義」とは、格差と不公平のゆがみをただし平等で公正な社会をめざすものとして広く受け入れられています。要求の性質からいえば民主的改革なのに、「社会主義」がその改革の象徴用語となっています。「社会主義」の議論をさえぎる壁がなくなっているということです。アメリカで「社会進歩をめざす新しい胎動が広がっている」、そのもとで(アメリカの将来についても、現在の局面についても、固定的に見ないという)改定綱領の弾力的なアメリカ論の立場で、今後アメリカに向き合っていくことが大切になっているとの提起にも注意したいと思います。

未来社会論に生まれた「新しい核」を生かす

 本書の魅力の第四は、未来社会論で開けた「新たな視野」です。

 著者は、マルクスが社会主義への「世界的展望」をどう考察したかを紹介し、それが21世紀の「世界的展望」を考えるうえでも重要な観点だと述べています。実際、改定綱領が明らかにしたように、資本主義存続の是非が問われる矛盾の焦点――貧富の格差の拡大、気候変動がいずれも、一国的規模にとどまらず「世界的規模で」、「地球的規模で」あらわれています。

 改定綱領第五章(一八)では、発達した資本主義から社会主義への変革は資本主義のなかで培われる「五つの要素」(資本主義のもとでつくりだされた高度な生産力、経済を社会的に規制・管理するしくみ、国民の生活と権利を守るルール、自由と民主主義の諸制度と国民のたたかいの歴史的経験、人間の豊かな個性)の継承、発展によって実現すると規定されました。これは、第五章(一六)に規定されている未来社会論の核心(「生産手段の社会化」を社会主義的変革の中心にすえるとともに、労働時間の抜本的短縮によって「社会のすべての構成員の人間的発達」を保障する社会という、マルクス本来の未来社会論を生きいきとよみがえらせた)に、「もう一つの『核』をつけくわえた」ものだと強調されました。「五つの要素」としてまとめた意義が、4点指摘されています。とくに、「未来社会論について青写真は描かない」は当然ですが「未来社会のイメージ」をできるだけわかりやすくどのように伝えていくか、これは『綱領教室』以来、志位さんが一貫して強調してきた問題意識です。生産手段の「所有・管理・運営」を社会の手に移す――この大変革と、その「有力なテコ」となる銀行・信用制度の発達との関係、「ルールある経済社会」の成果の継承との関係など。「五つの要素」という整理によって、「今のたたかいが未来社会へと地続きでつながっている」ことも明瞭になっています。どう語っていくか、問題提起を受け、研究、工夫していきたいと思います。

ジェンダー論への理論的寄与

 最後に、本書の「ジェンダー平等」論について特筆しなければなりません。

 「ジェンダー平等」は、市民との共闘のなかで日本共産党が市民運動、研究者の方々の研究成果などから学びつつ開いてきた新境地です。それが、綱領一部改定に生かされました。同時に、この問題を改定綱領の「新たな視野」でとらえなおすことによって、より深い境地に達することができたと思います。

 強調したいのは、この新境地を開く上で著者が果たしたイニシアチブです。それは、「フラワーデモ」への参加などの現場感覚、昨年の参院選での「ジェンダー平等」の政策的提起にとどまりません。理論的なイニシアチブです。本書を読むと納得できるでしょう。フェミニズム論の岡野八代・同志社大学教授のツイッター投稿、「志位さん、勉強してる」(第28回大会決定集パンフレット82ページ)は、偶然の発言ではありません。

 講義では、党大会での報告をより豊かにする「そもそも論」が語られています。日本でのジェンダー差別の政治的、歴史的な二つの「根っこ」論、「ジェンダー平等」とは「男女平等を求めるとともに、さらに進んだ、より大きなふくらみをもった、豊かな概念ではないか」との問題提起があります。

 「大きな研究課題だが」としつつ、「科学的社会主義とジェンダー」について論じられています。エンゲルス『家族・私有財産・国家の起源』での女性論・女性解放論が、史的唯物論の立場で「両性の真の平等の実現」を探究したものとして、「今日においても真理」であること。他方、「時々の支配階級が政治的につくり、歴史的に押し付けてきたもの」(党大会の報告)としてのジェンダーにかんしていえば、綱領第四章に位置づけたように資本主義の段階での民主的改革の要求として実現すべきであること。ジェンダー平等社会の実現と未来社会論との関係については、「あらゆる権力的関係がなくなる未来社会では、当然、ジェンダー平等が全面実現する」、「性暴力の根も、社会的な根としてはなくなっていくのではないか」と予見されること。これらの解明を受けとめて考えてゆきたいと思います。

「論理の運びの面白さ」

 志位さんは講義の結びで、「中国に対する規定を削除したことが、ジェンダー平等を綱領に書き込むことにもつながったわけですから、論理の運びというのは、なかなか面白いものであります」と語っています。本書を読み通すことで、その「論理の運び」の「面白さ」を味わうことができるでしょう。同時に、興味を持たれたどの部分から読まれても、日本共産党の綱領にどういう「新しい視野」がすえられたのかが伝わってくる、そういう「面白さ」ももちろんあります。コロナ危機と格闘している今ですが、そういう時であるからこそ、人類の危機と希望を深く問うた本書をおすすめします。(ながひさ・みちつぐ 党学習・教育局次長)


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