2020年2月27日(木)
主張
原爆症の判決
被爆者援護への逆行を許すな
白内障などの病気の経過観察を続けていた広島と長崎の被爆者3人が、原爆症の認定を求めた訴訟で、最高裁は原告の訴えを退ける判決を出しました。被爆者救済に一定の役割を果たしてきた司法の姿勢に逆行する不当なものです。
国の主張に司法が追随
原爆被害は75年たっても被爆者の体と心をむしばみ続けています。平均年齢は83歳近くと高齢化が進む被爆者の援護は急務です。
現行の被爆者援護法では(1)原爆の放射線が原因で病気になった(2)治療が必要な状態がある(「要医療性」)という条件を満たした場合に原爆症と認定され、医療特別手当が支給されます。今回問われたのは、経過観察なども「要医療性」にあたるかどうかでした。
未解明部分が残されている原爆症の特殊性や、健康維持などに特別の配慮が必要なことなどからすれば、「要医療性」を広くとらえるべきです。広島と名古屋の両高裁も、「経過観察も治療の一環」として「要医療性」を認め、国の却下処分を取り消し、原爆症認定の判決を言い渡していました。
国は被爆者の運動に押され、認定基準の改定を行ってきました。一方、経過観察の場合は「要医療性」は認めないとして、原爆症認定を抑えるようになりました。2014年には原爆症認定の更新(3年ごと)にあたって「要医療性」を「厳格化」する新基準を示し、その結果、更新申請が却下されるケースが急増しました。今回の最高裁判決は、原爆症認定を抑制しようとする国の姿勢を追認するものであり、極めて重大です。
最高裁判決は、「要医療性」のハードルを高める一方で、一律の基準は示さず、被爆者の状況を個々に判断すべきとしています。その意味では、逆行を許さない一つひとつのたたかいが重要になっていることも明らかです。
行政で認定を却下された被爆者が、裁判を通じて勝利する事例は続いています。被爆の実態を過小評価し続ける厚生労働省の認定基準の破綻は明白です。日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)はこれらの判決を受けて、現行法のままでも実現できる「原爆症認定基準に関する当面の要求」を示しています。同時に、認定制を抜本的に改める「原爆症認定制度のあり方に関する提言」を行っています。道理ある解決方向です。国は「裁判で負ければ認める」という姿勢に固執するのをやめ、これらの提案を真剣に検討すべきです。
戦後、国の被爆者への支援、援護策は10年以上、何もないに等しい状態でした。そこから一歩一歩、被爆者行政を前進させてきたのは、日本被団協をはじめ、被爆者とそれを支える多くの人々のたゆまない努力とたたかいでした。それは世界に核兵器の非人道性を認めさせ、核兵器禁止条約を成立させる原動力となりました。
戦争責任認め国家補償を
被爆者は、「ふたたび被爆者をつくらないとの決意をこめ、原爆被害にたいする国家補償」(「原爆被害者の基本要求」)を要求しています。被爆者行政をめぐる国の消極的姿勢の根本には、戦争責任を認めることにつながる国家補償の否定があります。
日本共産党は、被爆者行政の抜本的改善を求めるとともに、被爆者の国家補償を実現するために、ともに力を合わせます。