2020年2月13日(木)
クローズアップ
3・11後の子に支援を 被災3県調査
保護者3割「精神的不調」 「表現力」など発達に間接的影響
東日本大震災以降に被災地で生まれた子どもたちにも発達の遅れが見られると、医師、研究者が数年にわたって調査を続けています。震災の影響が、震災を経験していない世代にまで及んでいることが分かってきました。(高橋拓丸)
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岩手、宮城、福島の被災3県で2016年から始めた子どもたちの「表現力」や「記憶力」、「語彙(ごい)力」についての調査で、半年から数カ月ほどの認知発達の遅れが確認されました。
調査を実施したのは、児童精神科医や研究者などによる研究チームです。震災後1年以内に生まれた3県の子ども約220人を12年計画(中学卒業まで)で毎年調査しています。
研究チームは、「震災後の混乱が保護者らを通じて子どもたちに間接的な影響を及ぼしている」と分析。保護者の健康については、3割余りにうつ傾向や不安状態など精神的不調が見られました。
宮城県の調査を中心となって進めているのは、「みやぎ心のケアセンター」です。医師の福地成(なる)・副センター長は、保護者と子どものコミュニケーションが十分にとれていないことが一因と指摘します。
「震災で生活基盤が壊れ、さらに地域で孤立して生活や子育ての苦しさをどこにも出せない家庭もあります。地域のネットワークづくりなどを通じて、こういった家庭を手厚く支援していくことが必要です」といいます。
震災を経験した子どもたちにも、さまざまな影響が出ています。
福地氏らの調査では、津波の報道を何度も見て雨を強く怖がるようになった子どもがいます。自分が生き残っているのを悪いことのように感じてしまう「サバイバーズ・ギルト」(生存者の罪悪感)に苦しむ子どもも確認されています。
被災した小学校に勤める宮城県の50代の男性教員は、「落ち着きがない、集団行動が苦手といった傾向を持つ子が増えているように感じています。生活環境が変わり、不登校になる子もいました」と明かします。
男性教員は、「一人ひとりの子どもと向き合う時間が圧倒的に足りなくなっている」と訴えます。
復興支援の教員加配が、予算が獲得されているにもかかわらず配置されずに減少傾向にあると強調するのは、宮城県教職員組合の渡辺孝之執行委員長です。学力向上が重視されるが、その前提として子どもたちのケアが重要と指摘します。
渡辺氏は「研究チームの調査結果は、私たちの日々の実感を裏付けています」とうなずきます。学校に通っていた子どもが突然、保護者から離れることに不安を感じ、登校に支障をきたす例もあるといいます。
「震災が子どもたちにどんな影響を与えているのか、きちんと総括して教訓化し、共有していくことがこれからの課題です」
震災の影響を受けて育っている子どもたちの心の傷を軽くし、なくすために、こうした調査を生かして、困難を抱える家庭や学校現場への支援を強める必要があります。