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2020年1月8日(水)

2020焦点・論点

安倍政権とメディア

新聞労連委員長 南彰さん

市民とタッグ組んで権力と対峙、監視を

 安倍政権がメディアへの介入・支配の動きを強めるなか、全国の新聞関連産業の労組が加入する新聞労連(日本新聞労働組合連合、86組合・約2万人)は、国民の「知る権利」を守ろうと声明を出すとともに、市民と連帯して官邸前抗議行動を行うなど積極的に活動しています。南彰委員長に聞きました。(内藤真己子)


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(写真)みなみ・あきら 1979年生まれ。2002年朝日新聞社入社、08年から東京政治部、大阪社会部で政治取材を担当。18年秋から新聞労連に出向し現職。日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)議長も兼務。著書に『報道事変』(朝日新聞出版)など。
(撮影・佐藤光信)

 ――首相主催の「桜を見る会」疑惑をめぐって、昨年12月に「オープンな首相記者会見を求める」声明を発表し、話題になりました。

 自戒をこめて言えば、「桜を見る会」や、安倍晋三後援会主催の同「前夜祭」にはメディアの首相番記者やカメラマンも入り写真も撮ってきました。ここ数年、目の前で公然と異常な事態が進行していたのに問題を指摘できなかった。昨年10月「赤旗」日曜版に「税金私物化疑惑」とスクープされたことを重く受け止めなければなりません。

 メディアが首相の近くにいる第一義的な意味は、政権を至近距離で観察しチェックするためです。しかしその仕事が十分にできていなかった。「安倍一強」でこれといった政局がなくなり、政治取材から緊張感が失われています。共産党の田村智子参院議員が11月8日の予算委員会で30分丸々使って、問題を浮き彫りにする質問をして初めて各社も「追わないとまずいな」という感じになりました。

 ところが疑惑追及が本格化した11月20日、毎日新聞以外の内閣記者会加盟各社のキャップ(責任者)が安倍首相と会食した。「前夜祭」の5000円より高い6000円の会費を払って。

 この時点で、内閣記者会は首相の会見を要求していません。首相が疑惑について公式の説明をしていないのに、非公式の「オフレコ」懇談を先行させてしまった。外から見たら「疑惑を抱えた総理と、なにメシ食ってんだ」としか映らないですよね。

 「首相動静」で報道されると全国の記者から「権力機構が腐っているときにジャーナリズムまで信用を失ってしまったらこの国は終わる」といった悲痛な声が寄せられました。

 「オフレコの会食の誘いなんか断固拒否して会見を開けと要求するのがスジだ」「現場の記者が必死にやっているときに、キャップがそろって懇談するなんて本当に泣けてくる」。涙声で電話してきた記者もいました。

 私も、「この懇談は市民とメディアの間をまたもや引き裂いた。市民に信頼される報道を目指して頑張っている記者の心を折れさせていくメディアの上層部の意識って何なんだ」とツイートし、瞬く間に拡散されました。今回の懇談参加を判断した各社幹部の罪は重いと思います。

 ――オフレコの懇談は追及の矛先を鈍らせるのが狙いですか。

 安倍政権の政権維持のやり口は、都合が悪いことが起きてもそれを相対化し「どっちもどっちだよね」という無力感を市民に抱かせる作戦です。今回の懇談がまさにそれで、政権が一番ピンチのとき疑惑を追及しているメディアを誘って会食し、メディア全体を「共犯者」に仕立てようとしたのです。この術中にはまったままではいけないと考え、「報道各社は結束して、オープンで十分な時間を確保した首相記者会見の実現に全力を尽くすべきだ」と声明を出しました。

 メディアが市民の信頼を失って衰退したとき、民主主義社会を維持できるのか。いま瀬戸際に来ていると思います。

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(写真)MICの首相官邸前行動で「国民の知る権利を奪うな」と抗議する人たち=2019年3月14日

 ――民主主義の危機ということですね。菅官房長官会見での東京新聞の望月衣塑子記者への「質問制限」に抗議したのも、これに連なる問題意識ですか。

 記者の質問は相手の言うことが事実かどうかを検証する一番基本的な手段です。官邸がこれを封じたということは、この政権が持っている体質の現れです。意に沿わないものは排除して封じ込める。それが如実に現れているのが望月さんへの質問制限でした。

 一昨年の12月28日、官邸が内閣記者会に申し入れた望月さん「排除」の文書では、沖縄辺野古の米軍新基地建設での望月さんの質問を「事実誤認」と決め付け、誤った政府見解を押し付けようとしていました。これがまかり通ったら政府の言う通りのことしか質問できなくなります。

 それは戦前「記者登録制」をつくり、天皇制を中心とする「国体」を理解する「公正廉直の者」に取材を制限していたときと同じです。戦前の大本営発表の過ちを繰り返しかねない。そこにつながる問題だと思い昨年3月には、新聞労連などメディア関連労組でつくる日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)として官邸前で抗議行動をしました。

 現役の記者7人が官邸前に集まった600人の市民の前でマイクを握って「知る権利を守ろう」「質問を妨害するな」と訴えました。国連の「表現の自由の促進」についての特別報告者のデビッド・ケイさんが6月に出した報告では、「市民とメディア労組の間で連帯が強まっていることを歓迎する」と評価しています。

 ――メディアと市民との関係も変わらなければならない、ということですね。

 SNSの登場でメディアが置かれている環境が劇的に変化しています。情報の出口を独占することで得ていた権力との交渉力を失いました。そうした中、安倍政権はメディアを徹底的に選別・分断し強固な仲間をつくってきました。自分を格好良く報道してもらえるところだけでいい、というのが本音ではないでしょうか。

 これに対抗するには、市民の支持が必要です。記者会見で市民が疑問に思っていることをしっかり聞くことも一つ。市民と向き合い、タッグを組んで権力と対峙(たいじ)し監視する。そういうあり方に切り替わっていかないといけない。

 キーワードは「多様性」です。フリーランスなどに取材機会を開放することや、ジェンダーバランスの見直しを進めないといけない。日本のジェンダーギャップが過去最悪を記録するなか、新聞社も女性記者はやっと2割超。管理職は少ないです。

 報道の多様性を確保することにもつながるよう、新聞労連では公募による「特別中央執行委員(いわゆる女性役員枠)」を設けました。昨年7月の大会で8人の女性を選出し既存枠も含めると女性役員が37%を占めます。議論の質も変わりました。女性が既存のメディアのあり方を変えていく改革の原動力になると思いますよ。


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