2020年1月4日(土)
きょうの潮流
柳美里(ユウ・ミリ)、梁石日(ヤン・ソギル)、李恢成(リ・カイセイ)…。在日韓国・朝鮮人の作家は今やおなじみです。戦後その道を切り開いた在日文学の草分けが、金達寿(キム・ダルス)でした。今月17日は彼の生誕100年にあたります▼10歳で家族とともに日本に渡り、くず屋で働きながら大学を卒業した勉強家でした。代表作『朴達(パク・タリ)の裁判』(58年)は芥川賞候補に。「作品の出来は際立っていた」と選考会で認められながら、もはや新人ではないからと受賞を逃した逸話が残っています▼本好きだった少年時代、金達寿は志賀直哉を読んで感動します。生活には少しも困らないブルジョアばかりの話に、なぜ自分は心を動かされたか。「そこには共通の人間的真実が書かれているからである」と▼そして文学を志します。「おれは自分たち朝鮮人のそれを書くのだ。それを日本人の人間的真実に向かって訴えるのだ」。自伝『わがアリランの歌』につづっています▼金達寿は帝国日本による植民地時代の朝鮮の現実をくり返し描きました。そこに、アメリカに従属した戦後日本と「共通の人間的真実」を感じたからです。「日本の人々よ、ただ一つ、朝鮮人はこのような不幸において先輩であった」▼それは現在も。米軍基地の存在が羽田空港の新飛行ルートをゆがめ、安全を脅かしている。本紙日曜版が内部資料によって暴露した現実です。沖縄の辺野古や米軍の事故や犯罪も同じ。韓国・朝鮮にたいする植民地支配への認識と反省が、日本の真の独立につながる。その思想は今を励ましています。