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2020年1月1日(水)

新春対談

上智大学教授(政治学) 中野晃一さん
文明壊す安倍政治と決別する「覚醒の年」に

日本共産党委員長 志位和夫さん
国民にポジティブな魅力が伝わる野党共闘へ

 日本共産党の志位和夫委員長の新春対談。今年は、中野晃一・上智大学教授(政治学)を迎え、野党連合政権の展望や世界と日本の問題など、縦横に語り合いました。


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 志位 明けましておめでとうございます。

 中野 明けましておめでとうございます。

 去年を振り返って一番思うのは、夏の参院選で改憲勢力の議席を、改憲発議に必要な3分の2割れに追い込み、それを踏まえて安倍政権が完全に迷走で終わる臨時国会となったことです。

 もちろん、特筆することとして「桜を見る会」疑惑の「しんぶん赤旗」日曜版のスクープと田村智子参院議員による国会質問を契機に、野党が最終的には一丸となって追及したことがあります。ボクシングでたとえるなら、安倍晋三首相は倒れてロープに手を伸ばしている状況で、もう恥も外聞もなく逃げたというような形で終わったと思うんですね。

 野党共闘の局面でも、参院選でのたたかいをへて、共産党が積極的に、れいわ新選組、社民党、立憲民主党、国民民主党とも対話を深めていって、選挙協力から政権構想に向かって大きなビジョンを国民に提示していく形をつくりました。安倍政権そのものはまだ続いていますが、その先への展望というものを示して1年を終えたと思います。

 志位 そうですね。

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 中野 後ろ向きで文明を壊していくような安倍政治に決別して、少しずつ前に向かっていく、それを市民と野党が一緒になってつくっていく「覚醒の年」にしたい。私たち市民連合にしても、野党にしてみても、共闘の枠組みの中からさらにポジティブ(積極的)に希望を提示していけるような局面をこれから意識していく必要があるのではないかと思っています。

 志位 1年を振り返ってみまして、野党共闘が質的に大きく前進した年だったと思います。

 2016年以来の参院選、17年の総選挙、そして去年の参院選と3回の国政選挙を野党共闘で取り組んできたんですけれど、去年の参院選は32の1人区すべてでの野党統一候補の実現とともに、3選挙区5県(徳島・高知、鳥取・島根、福井)で共産党候補で一本化し、お互いに支援しあう、相互乗り入れの協力へ初めて本格的に踏み出した選挙になりました。

 そのあと、埼玉、岩手の県知事選挙で勝ち、高知県知事選では共産党県委員の松本顕治さんを「オール野党」で推していただいて大善戦しました。55人もの国会議員(元職を含む)のみなさんが応援にきていただき、各党党首のみなさんもそろって入っていただくという形で、共闘の質的な発展があったと思っています。そういう力が国会にも及んで、「桜を見る会」の疑惑追及をはじめ安倍政権をぎりぎりまで追い詰めつつあるというところまできた。「桜を見る会」の疑惑追及は、「しんぶん赤旗」のスクープ、田村智子さんの国会質問から始まっていったのですけれども、あそこまで大問題にできたのは、野党共闘の力です。

 中野 そうですよね。

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 志位 野党で「追及チーム」をつくり、それを「追及本部」に格上げして、みんなで協力していった力が、安倍政権を断崖絶壁のところまで追い詰めている。ですから、中野さんが言われたように、“反文明的な政権”をいよいよ終わらせるときがやってきたと思いますし、野党共闘も、国民のみなさんからみて、ポジティブで、「それはいいね」と魅力が伝わるような中身をつくっていければと各党のみなさんとも話し合いを重ねてきました。ぜひ今年は、共闘の力で安倍政権を倒して、政権を代えて、新しい政治をつくる年にしたいと思いますし、そのなかで日本共産党自身も伸びていかなくてはと決意しているところです。

志位さん 「ウソのない政治」へ頑張りどころ

中野さん 有権者が希望持てる政権選択肢を

安倍政権をどうやって倒すか

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(写真)しい・かずお 1954年、千葉県生まれ。東京大学工学部物理工学科卒業。1990年から2000年まで日本共産党書記局長。2000年から幹部会委員長。衆院議員9期。

 中野 安倍政権をどうみるかですが、権力や富を集中させた人たちが、わが物顔に立憲主義や民主主義のタガを外してふるまっているという状況が展開していると思うんです。人類史には、さまざまな悪政がありました。しかし今の状況は、その悪政の名前をつけようがないくらいひどいものになっているのが特徴だと思います。

 安倍首相、トランプ米大統領の政治は、「アベイズム」「トランピズム」と無理して言えなくもないのですが、中身がない。新自由主義経済を推進したイギリスのサッチャー首相の政治は「サッチャリズム」として、サッチャー首相は何をやろうとしていたのかという一定の方向性があった。ところが安倍首相にあるのは単に、「支配したい」「屈服させたい」というものです。

 では、支配させ屈服させて何がしたいのか、彼らなりのポジティブなビジョンがとくにない。空疎な文明破壊が行われていっているだけです。改憲右翼団体の「日本会議」メンバーが内閣の多数を占め、歴史修正主義という極右的要素はありますが、ひたすらそれにまい進するほどの一貫性があるわけでもない。たとえば、ナショナリストであればやらないような外国人労働者の受け入れを、使い捨ての形で拡大していく。結局、何でもあり。とにかく力で押さえつけたい、支配したいというようなところがある。

 ただ、同時にその中身のなさ、あまりに筋が通っていないということが、たたかいにくさにつながっているところもあると思います。「桜を見る会」もそうですが、怒っているんだけれども、人によってはその中身がばかばかしすぎて国会前の抗議に行くのがしんどいと。為政者に向かって「ウソをつくな」と叫ばなければならないほどレベルが下がっているのか、というつらさです。もうどうでもよくなっちゃうという、独特の“ゆがみ方”ですね。

 志位 いま中野さんが話された点で思ったのは、安倍首相にしてもトランプ大統領にしても、共通しているのは、真実、ファクト(事実)に対する誠実さがないということですね。簡単にいえば、ウソを平気でつく。そして、そのウソにまわりがつじつまを合わせて、ウソの合唱になっている。これはほんとうに究極の政治の堕落です。

 それに対して、国民の側も、たしかに怒るよりあきれるという感じもあると思うんだけれども、やっぱり民主主義の国として、政治のトップリーダーがウソをついて平気だということを許しておいたら、もう土台から腐っていきますよね。ここはやっぱり頑張りどころだと私は思うんですよ。

 相手は“ウソをつき続けても、最後は慣れてくれるだろう。最後はあきらめるだろう”とタカをくくっている。そういう慣れとあきらめの中で国民の支配を続けようというのが腹ですから、慣れてもいけないし、あきらめてもいけない。とことんウソのない政治をつくらなければいけない。今度の「桜を見る会」疑惑は、もうウソがいよいよ通らなくなった問題だと思う。

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(写真)「桜を見る会」問題の徹底追及を決意して拳をあげる野党議員=2019年11月25日、国会内

 「モリカケ」(森友・加計問題)と構図は非常に似ているんですけども、違いもあります。「モリカケ」の場合は、関係者は少数じゃないですか。ところが「桜を見る会」は何千人もいる。隠し通せるものではありません。それから、実害を受けた被害者が「ジャパンライフ」の関係者だけでも7000人もいる。老後のなけなしの貯金をすべて持っていかれて、路頭に迷っている方が何千人といるわけです。安倍首相に直結する政治資金規正法とか公職選挙法とかもろもろの法律違反の疑いもある。これだけ積み重なっている。だから、今度ばかりは年貢の納め時だと。

 中野 そうですね。

 志位 私たちは、通常国会の冒頭から野党共闘で徹底的に追い詰めて、安倍首相を辞めさせるという決意で臨もうと話し合っています。いいかげん「ウソの政治」はもう終わりにしましょう。

 中野 自民党はこの間の国政選挙で得票率をとくに伸ばしているわけではありません。だから安倍さんの手法は、野党を分断して多くの人に棄権してもらう、うんざりしてもらえれば、自分たちの持っている固定票だけで、とにかく小選挙区、地方の1人区などで議席を維持することができるというものです。意図的に私たちにあきらめさせ、もう政治なんかどうでもいいだろうと思わせてきている。

 その点で問題だと思うのは、参院選が終わっての安倍首相のウソです。改憲勢力が3分の2を割り、さらに自民党は参院で単独過半数を割った。公明党の協力がなければ法律一本通せないのに、安倍首相は選挙直後の記者会見で、「改憲論議を前に進めてほしいという民意が示された」とまったくのウソをいうわけですよね。

 志位 それはまったくウソですね。一事が万事、すべてウソをいっている。

 安倍政権が「選挙に勝っている、勝っている」というのだけれども、対有権者比でみると、安倍政権になってからの国政選挙の比例代表で一度も2割をとったことがない。すべて1割台です。「勝っている」といっても、要するに投票率が低いもとで、小選挙区制という選挙制度のゆがみで何とか「虚構の多数」をつくりだしているだけです。もう一つは、この選挙制度によって、自民党執行部が、金と公認権を握り、党内を独裁的に支配して、異論を封じ込めてきた。安倍政権は「1強」と言われるけど、「1強」でも何でもない。いま棄権している方々も含めて、「おかしいぞ」という声を上げれば、一挙にひっくり返る、もろいものなのです。

 中野 「桜を見る会」では、公然と公金を使って自分の選挙区の人たちを招待してもてなすという“買収行為”をしている。志位さんがおっしゃった選挙制度のゆがみにくわえて、安倍政権はこんな私物化までやっているのか。これ以上分かりやすい話はありません。それで捕まらず、うやむやにされてしまうのは、どうみてもおかしい。選挙区の有権者に対する買収行為では公職選挙法違反などが指摘された大臣らが少なくとも辞めているわけですから、本来であれば安倍さんは議員辞職、最低限でも内閣総辞職ですし、捜査の手が入ってもおかしくありません。今年の冒頭、安倍さんが「この先は進めない」と感じるようなスタートをつくっていくのが非常に重要だと思います。

 志位 「桜を見る会」疑惑の追及は徹底的にやるつもりです。真実をあばき、首相を辞めさせるまでやり抜きます。

内政と外交の行き詰まり

 志位 内政や外交の本体の部分でも、安倍政権の行き詰まりは、「ゆきつくところまできた」という感がありますね。

 たとえば経済問題を考えても、消費税10%増税に対して、「こんな不景気の時にやるのは自殺行為だ」と強く反対したんだけれども、私たちが警告した通りの事態になっています。増税後の経済指標をみますと、家計消費も、景気動向指数も、日銀短観も、すべてがひどい落ち込みです。2014年4月に8%に上げた直後よりもっと悪い。新たな大不況が始まっているという状況です。

 ところが、またぞろ26兆円規模の経済対策だといって、13兆円も財政支出を行うという。13兆円ものお金があるのだったら、私たちは「緊急に消費税の5%への減税を」と言っていますが、消費税を下げるべきですよ。安倍政権の経済運営はでたらめの極み、行き詰まっています。

 外交はどうか。安倍政権は三つの覇権主義への「ペコペコ外交」をやっている、と私は言っているんです。

 中野 「ペコペコ外交」ですか。

 志位 ええ。まず米トランプ大統領には、言われるまま武器を「爆買い」して、言われるままに農産物の市場開放をやって、「思いやり予算」の途方もない増額を求められても反論の一つも言わない。異常な対米屈従外交です。ロシアのプーチン大統領に対してはどうか。領土問題で、「2島で決着」と、これまでの日本政府の方針からいっても説明のつかない譲歩をし、それもプーチン大統領から拒否され、まったく展望のないところにきて、まさに国益を損なった。対中国外交も、今春の習近平国家主席の国賓訪日ありきで、尖閣諸島の問題や香港の問題などいろいろな中国の問題点があるのに、言うべきことを言わない卑屈な外交姿勢に終始しています。

 対米、対ロ、対中の3方面の覇権主義にペコペコしている。それで韓国に対しては居丈高にしている。これは最悪だと思いますね。自主的外交に根本的に切り替えないといけないと思いますね。

 中野 私もまったく同じ評価です。先ほど申し上げたような、「中身のない支配」というものが、まさに、そこにあらわれている。要は、強いところには服従するが、国内では自分が一番強いということで、自分より弱いと思ったら、とにかく屈服させようとする。そういうことでしか世の中が見えていないと思うんです。

 志位 ええ。それは安倍政権の外交姿勢によくあらわれていますよね。

 中野 覇権国に関してはペコペコするが、韓国には「生意気だ」とむやみに高圧的な態度をとる。こうした外交姿勢にはまったく中身がないし、方向性がない。外交の貧困どころか失敗、破綻という状況で、本当に深刻だと思うのです。

改憲阻止へ、手を緩めない

 志位 先ほど、中野さんが安倍政権について、「支配させ屈服させて何がしたいのか、彼らなりのポジティブなビジョンがとくにない」とおっしゃったのですが、私は一点だけあると思うんです。「憲法を変えたい」ということです。安倍首相が真にやりたいこと、その野望はこの一点だけだと言ってもいい。戦後初めて憲法を変えた首相として、自分の名を歴史に刻みたい、将来の歴史教科書に載せてもらいたい――そういう野望で一貫している。その手段として「アベノミクス」を使う。「安倍外交」も使う。何もかも全部使う。やりたいことの終着駅は「憲法を変えたい」。これですよね。

 ところが、これがうまくいっていない。これからもうまくいかせちゃいけないのだけど、とにかく改憲を抑えてきた。私たちは、野党共闘を4年間やってきて、まだ第一歩だと思うのですけれども、ともかく安倍改憲を止めてきたことは、大成果だといっていいと思うんですね。

 中野 おっしゃる通りです。「戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動」を中心とした市民の声が今でも立憲野党の共闘を後押ししている。そのことによって安倍首相は、ふらふらになっている。森友・加計問題が表に出てから以降の特徴だと思っているのですが、安倍首相は政権が厳しくなってくると、改憲アクセルを踏むわけですよ。自分の一番熱心な支持者たちが集まってくるように。

 志位 コア(中核的)な支持者を固めるためですね。

 中野 ところが、自らアクセルを踏むことによって、国会の憲法審査会が動かなくなる。そこで登用してはいけない人を改憲の布陣づくりで登用し内輪で盛り上がる。内輪では「これから改憲をやるんだぞ」というようなことで満足してもらうんですが、実際にはそれでいっそう国民世論も、野党の切り崩しも、とてもできない状態になる。ある意味、いつまでたっても、見果てぬ夢を追っている。夢に近づくことができないどころか、むしろ遠ざかってきている。ただ同時に、よりその奇矯なふるまいがより暴発しかねない危険も出てきていると思います。

 志位 昨年11月に神戸市で開かれた全国革新懇の交流会で、憲法学者の小林節さん(慶応大学名誉教授)が「安倍首相は改憲をやる時には一気にやる危険がある。だから絶対に警戒を怠ってはいけません」という話をされていました。彼らが、最後にともかく数を頼んで一気に改憲を押してくるということは常に考えておかなければいけない問題ですから、私たちは、改憲発議そのものができないような強固な世論をつくっていくことが必要です。絶対に手を緩めてはいけない。

市民と野党の共闘の発展

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(写真)なかの・こういち 1970年生まれ。上智大学国際教養学部教授(政治学)。「立憲デモクラシーの会」呼びかけ人。「市民連合」メンバー。主な著書に『つながり、変える 私たちの立憲政治』『右傾化する日本政治』など。

 志位 野党共闘をめぐっては、2014年の総選挙の前に、中野さんたちにお会いした際に、「志位さん、野党共闘はどうですか?」とお話をいただいたことがありましたね。

 中野 ええ、よく覚えています。印象深いやりとりでした。

 志位 そのとき、私たちの党は衆院で8議席で小さいこともあり、「もうちょっと待って」という話をしました。(笑い)

 中野 そうでしたね。

 志位 そのあと2015年9月に安保法制=戦争法反対のたたかいのなかで共闘の方向に踏み出しました。それから4年間、3回の衆参国政選挙をやり、一定の成果をあげてきたといえると思うのですね。とくに参院選についていいますと、16年の選挙で、32ある1人区のうち11選挙区で野党統一候補が勝利し、昨年19年の選挙では10選挙区で勝ちました。この二つの参院選で11と10の1人区での勝利が積み重なったことによって、改憲勢力を3分の2議席割れに追い込み、自民党を参議院で過半数割れに追い込んだ。大きな成果をあげてきたというのは間違いなく言えると思います。

 しかし、ここでどうしても、もう一歩、野党共闘をバージョンアップする必要があると考えまして、昨年8月8日の党創立97周年記念講演のなかで、市民と野党の共闘の4年間の成果と到達点を踏まえて、さらにすすんで野党連合政権を実現するために力を合わせよう、そのための政治的合意をしっかりつくり、野党連合政権が実行する政策を国民にしっかりと示していくことが、野党共闘が発展するうえでどうしても必要な時期に来ているのではないかと提案させていただきました。

 その後、立憲民主党、国民民主党、社民党、れいわ新選組の4野党の党首と会談を重ねてきました。立憲民主党代表の枝野幸男さんとは、「安倍政権を倒し、政権を代え、立憲主義を取り戻す」という点で一致しました。国民民主党代表の玉木雄一郎さんとは、「立憲主義の回復」「格差をただす」「多様性を大切にする」という三つの方向で一致し、政権交代のために協力していくことで合意しました。社民党党首の又市征治さんとは、安倍政権の打倒と政権交代で協力することで合意し、れいわ新選組代表の山本太郎さんとは、野党連合政権を協力してつくっていこうということでの合意が得られました。重要な前進だと思います。

 4党首のみなさんとの合意は、いろいろな色合いの違いもあるんですけれども、私の実感として、「野党連合政権をつくろう」という呼びかけをさせていただいて、一歩一歩、その方向に向かって前進してきたという間違いのない手ごたえはあるのです。ですから、ぜひ、これを総選挙に向けて実らせて、国民のみなさんに自民党に代わる政権はこうだというものをしっかり示せるような共闘にしたいと考えているところです。今年はぜひそういう年にしたいと決意しています。

 中野 安倍首相が2014年12月、解散権を乱用して消費税増税を先送りすると、恩着せがましく言って解散・総選挙をやった。その選挙の前です、私たちは無理を承知で志位さんに野党共闘のおうかがいをしました。その時に、志位さんがおっしゃったことを私はよく覚えています。

 その時の話が、本当にその通りになっていきました。非常に心強いところでもあります。また、4年前、「しんぶん赤旗」の新春対談でお話しさせていただいたときも、無理やり安保法制は強行採決されてしまったけれども、われわれはまだまだ抵抗してこれを変えていく、そういうたたかいが力強く続いていて、次の局面に移っていっているという手ごたえを感じていたと思うんです。

 そこから、おっしゃったとおり3回の国政選挙があって、紆余(うよ)曲折を経ながら、市民と野党の共闘への逆流がすごい勢いできたときも、体を張って共産党にも止めていただいたということがありました。2020年に関していえば、政権構想を提示していって、有権者がもう一回希望を持てるような選択肢を提示できるようにしていく。この間の市民と野党の連携をより強く、より広がりができるものにしていきたいと思っていますし、十分可能だと思っています。

 志位 政策的な一致点でいいますと、昨年の参院選で市民連合のみなさんと野党で交わした13項目の合意がありますよね。野党各党の間ではこれがベースになると思うんですが、少なくとも次の三つの点は、安倍政治からの転換の方向で一致できるのではないかという提案を、この間行ってきたんです。

 一つは、憲法にもとづき、立憲主義、民主主義、平和主義を回復する。

 二つ目は、格差をただし、暮らし・家計応援第一の政治に切り替える。

 三つ目は、多様性を大切にし、個人の尊厳を尊重する政治を築く。

 立憲主義の回復、格差是正、多様性の尊重――これらは当たり前のように見えるけれど、すべて安倍政治にはないものです。安倍政権はこの3点においてまったく正反対のことをやっているわけですから、安倍政治からの転換の内容になるし、野党共闘の理念の提示になる。この三つの転換の方向で大枠一致して、政策を詰めていく、そして政権をつくるということがしっかりと示せれば、国民のみなさんからみて、一つの新しい希望のもてる方向が見えるんじゃないかと思って、こういう提案をしてきました。

 中野 なるほど。玉木さんとの会談では、3点とも合意されたそうですね。

 志位 ええ。おそらく他の野党のみなさんとも話し合えば、「当然だね」と一致すると思うんです。よく安倍首相は、野党共闘について「理念なき野合」といいますが、野党にはちゃんと立派な理念があるということを示しながら、政策を詰めていくことが大事じゃないかと。

 中野 「理念なき癒着と支配」をしているのは自公政権ですからね(笑い)。おそらく自分たちのイメージを野党に投影したいということなんだとは思いますが(笑い)。いまおっしゃった3点は、われわれ市民連合としても、13項目を提示したときのエッセンスがそこにあると思うんです。13項目のときのスローガンは、「だれもが自分らしく暮らせる明日へ」です。そこに込めた思いは、憲法が体現する価値を踏まえたうえで、暮らしの意味でも自分たちらしく暮らせる、ディーセントワークなども含めてです。

 多様性ということでいえば、ジェンダーの問題とか、日本のなかで一緒に暮らしているいろんなルーツをもっている人たちや、セクシュアルマイノリティーの人たちとのつながり、世代間でもうまくつながっていくということで。

 志位 それが13項目に入っているんですよね。

 中野 そうなんです。いよいよそれをさらに普遍化し、どうやってより多くの人に届くような伝え方をこれからわれわれがやっていくことができるのか。大きな課題なんじゃないかと思っています。

多様性の中の統一

 志位 よく安倍首相などが野党共闘に対して、「枝野さんと志位さんとは自衛隊の問題では立場が違うのに一緒にやっているのはおかしい」と批判するんですよ。それこそおかしい。野党は、それぞれ別の党なんだから、それぞれの党の個性があっていいじゃないですか。別の政党だから、独自の政策があって当然でしょう。違いがあっても、お互いに尊重して、リスペクト(尊敬)して、一致点でしっかり協力する。「ユニティー・イン・ダイバーシティー」、多様性の中の統一です。これが一番強い。安倍首相の方は多様性ゼロですから(笑い)。よっぽどこちらの方が魅力的だという姿を野党共闘のなかで見せていくことが大事じゃないかと思っていまして、私たちならではの独自の政策も大いに語っていこうと思っているんですよ。

 消費税廃止を目標にしつつ緊急に5%に減税する。国民多数の合意で日米安保条約を廃棄する。さらに私たちは社会主義・共産主義社会をめざしていますから、未来社会の展望を大いに語っていこうと思います。私たちは日本共産党としての魅力を大いに語って伸びていく。ただ、共闘のなかでは一致点でしっかりやる。それは当たり前の民主的なルールだと思うんですね。

 中野 おっしゃっていることは、まさに世界の常識だと思っています。いま、安倍さんたちは野党に対する印象操作をやって、「野党はバラバラだ、理念がない」というレッテルを貼る傾向がある。しかし、だれでもよく知っているのは、非常に苦労しながら話し合って共通点を見いだして、選挙協力につなげていく、そして合意できる政策をあぶり出していくことは、世界の多くの国で当然のこととしてやっているということです。だから、選挙のときには話し合って選挙協力をし、政権をつくるということになれば共通政策をつくって、一緒に政策を進めていく。これは当たり前です。

 いつまでに、どこまでだったら一緒にできるというのは、決して単一の政党にならなくてはいけないとか、みんなで同じ色に染まらなければいけないとか、大政党のいうことに小政党は全部つかなければいけない、ということではないと思っています。

 志位 世界という点では、ASEAN(東南アジア諸国連合)のモットーが「ユニティー・イン・ダイバーシティー」なんです。ASEANの国々は発展段階が違います。先進国もあれば、途上国もある。社会体制も違う。宗教も違う。まさにダイバーシティー(多様性)に富んでいる。ダイバーシティーに富んでいるわけですが、ユニティー(統一)が非常に強い。TAC(東南アジア友好協力条約)を土台として、地域の平和の安定のために協力し、あらゆる紛争問題を話し合いで解決する。このことを実践しています。

 中野 そうですね。

 志位 国家間の問題と政党間の問題は違うんだけれども、ASEANに何度もうかがって、「ユニティー・イン・ダイバーシティー」はいいモットーだなと思って、最近、野党共闘でも使わせていただいているんです。多様性を大事にしながら統一するっていうのは、世界ではいろんなところで、いま、当たり前になっているんじゃないかと。

 中野 さっきおっしゃった「安倍政治からの転換の三つの方向」の三つ目――「多様性を大切にし、個人の尊厳を尊重する政治」を掲げている以上は、そこにいたる道のりも、多様性を前提にしていくことが不可欠となります。安倍さんのもとでみんなが沈黙して、服従して、なんでもいうことを聞いていくというやり方に対して、われわれは、議論するときはしながら、そして合意をつくったならば、それを一緒に進めていくという作業を繰り返していくことが、まさにその多様性を尊重しながら、だれもが尊重される、だれもが自分らしく暮らせるような社会をつくっていくための政治の進め方が、必然的に求められるんじゃないかなと思っています。

 志位 それが、一番強いと思いますよ。しなやかで強い。向こうは多様性ゼロで、強そうに見えるけどもろいと思いますね。

 中野 私は市民連合も同じだと思っています。それぞれ違いがあるから、デコボコみたいになっているところがある。たとえていうなら、きれいに製紙された紙と違って和紙みたいにすいたような形です。しかし、かえって破れづらいところがある。

 お互いがお互いの強みを持っていて、お互いがお互い、ここはこだわりたい。しかしここは一緒にやっていこうというようなことが当然あって、安倍政権を倒したあとでは、さらに議論を活発化させて、いまのような時代、これから何をやるべきなのかということに関しては、一回話し合って決めてそこでおしまいとか、絶対権力を握っている人がこっちにいくからこれで決まるというような単純な時代じゃないと思うんです。だからこそ、それぞれの英知を持ち寄って、お互いを尊重しながら、リスペクトしあいながら、政策を前に進めていくという政治を、すでに野党にありながら、模索していただいていると思っています。

 志位 「リスペクト」という言葉も、もともと4年前の対談で中野さんが、メッセージの伝え方というお話をされたなかで語られたものでしたね。「メッセージを伝えるためには、相手をリスペクトして、相手の立場を尊重してこそメッセージが伝わっていく」と。とってもいいお話だなと思って、私たち心がけているつもりなんですけれども。(笑い)

 中野 いやいや、それはもう十分わかっております(笑い)。それこそ、この間、何度か折に触れてこうやってお話をさせていただいていますから。

「個人の尊厳」とジェンダー平等

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(写真)性暴力を許さないと、フラワーデモで訴える人たち=2019年11月11日、東京都千代田区

 中野 ジェンダー平等という課題ですが、だれもが自分らしく暮らせる、そして個人の尊厳というときに、これまで、日本社会においては、このジェンダー平等の視点が欠けていたと思うのです。そういった中で社会の制度設計がなされ、あるいは暴力や差別の構造がどんどん出てきていることは、特にわれわれ男性は、ともするときわめて無感覚に来ていた部分もあると思います。

 これだけ多くの女性が声を上げて、取り組みを始めて、お互いを支えあっている時に、遅ればせながらであっても、私たちにも何ができるんだろうかという思いは、これからの政治を切り開いていく上で、そして日本社会を変えていく上では、根本的なことだと思います。それは、一つの政策分野というよりは、視点としてすべての政策分野に及んでいくようなインパクトを持つべきものだろうと思っています。

 志位 ジェンダー平等は、中野さんが以前から大事な問題だと提起されていた問題ですが、この間、世界でも大きなうねりとなっていますし、日本でもジェンダー平等をめざすさまざまな運動が起こっている。フラワーデモなど性暴力を根絶していこうという流れも起こってきました。そういう運動に私たちも学びながら、今度の党綱領一部改定案に「ジェンダー平等社会をつくる」ということを書き込みました。

 全党討論のなかでは、「ジェンダーとは何か?」という疑問も出てきました。私の理解では、ジェンダーとは、一般に「文化的・社会的につくられた性差」と定義されるのですが、これは決して自然につくられたものではない、慣習でもない、個人の意識だけの問題でもない。時々の支配勢力が、自らの支配のために「女性らしさ」とはこうだ、「男性らしさ」とはこうだ、というような行動規範なり、役割分担なりを押し付けてきた。つまり政治的に押し付けられて、歴史的に形成されてきたというとらえ方が大事だと思います。

 ですから、この問題を解決する方法は、もちろん一人ひとりの意識を変えていくことも大事だけれども、政治を変え、社会を変えるというところが大事になってくる。こういうとらえ方が大切ではないでしょうか。

 もう一つ、中野さんの話との関係で言いますと、ジェンダー平等社会をつくるというのは、「男性も、女性も、多様な性をもつ人々も、差別なく、平等に、自分の能力を自由に発揮できる社会」をつくるということではないでしょうか。

 中野 そうですね。

 志位 つまり、今ジェンダーのいろんな縛り、「女性はかくあらねばならない」「男性はかくあらねばならない」という縛りの中で、自分の本当に自由な自己実現ができない。それを取りはらって、だれもが差別なく、平等に、自分らしく生きることができ、自分の力を発揮できる。「エンパワーメント」できる。これがジェンダー平等のめざすべき社会ではないかと思うんですね。

 ところが、日本はジェンダーギャップ指数121位という、世界で最も遅れた国になっています。なぜかと考えますと、二つ問題があると思います。

 一つは、財界の無分別で、節度のない利潤第一主義です。建前の上では「男女平等」というが、実際にはもうけのためには、ジェンダー差別を平気で押し付けている。女性には「安上がりの労働力」と「家族的責任」を一方的に押し付ける。男性には「企業戦士たれ」と長時間労働と単身赴任を押し付ける。女性にも男性にもジェンダー差別を押し付け、最大の富を吸い上げる。日本は、「ルールなき資本主義」の国と言われますが、こうしたルールのなさはジェンダーの問題にいちばん集中的にあらわれているのではないかと思います。

 日本経団連の役員名簿を見たら、会長・副会長の中に女性は一人もいないですよ。ILO(国際労働機関)総会でハラスメント禁止条約が採択されても、日本の経団連は棄権でしょ。先進国で日本だけですよ。利潤追求をジェンダー平等の上に置く恥ずべき態度です。

 中野 本当にそうですね。

 志位 もう一つは、明治期につくられた男尊女卑、個人の国家への従属――この政治思想がある。明治期になって、絶対主義的天皇制を頂点とする国家体制の末端に「家族」が位置付けられて、その中で男尊女卑、個人の国家への従属が末端まで国家によって強権的に押し付けられた。教育勅語、刑法・民法、すべてあの時代に徹底的にジェンダー差別――女性は「大和撫子(なでしこ)たれ」と、男は「勇猛果敢に戦え」と、こういう価値観がつくられた。戦後も戦前的な価値観を持った勢力が政権を担ってきたわけですが、安倍政権というのはその中でも一番悪い流れをくんでいる。戦前の日本を「美しい国」として逆行をはかる。「女は子どもを3人産め」などと平気で言う勢力がいまだにいる。財界の無分別と節度のなさ、明治時代の戦前的な価値観をいまだにもって押し付ける勢力、この二つを変えていくたたかいじゃないかと思います。

 中野 いま、おっしゃった点は、明治の時代につくられた父権社会の中での「動員」の発想ということだと思います。それは教育面では教育勅語にあらわれているわけですけれども、発想として男性も女性も国家の目的のために動員をするということです。それが、いまだにまかり通っています。

 1980年代には、それは見直していかなければいけないという流れが起きて、男女雇用機会均等法もそうですし、フェミニズムの新しい流れ、取り組みもあったと思うんですが、それに対するバックラッシュ(揺り戻し)が90年代の終わりごろから強くなっていったのです。そして今の政権では完全に先祖がえりしてしまっている。

 それに対して私たちが、打ち立てていかなければいけないのは、抑圧や差別、暴力というものはだれに対してのものであっても許してはならない、もちろん性差別に関しても退けていくことに取り組んでいかなければいけない。

 もう一つは、そのような「動員」の発想でやっていくことの限界、破綻がこれだけ明らかになっていて、それは男性に対しても女性に対してもそうだと。われわれが目指していかなければいけない社会というのは、自由な個人が自分らしく暮らしていく、そのことの活力の中から、日本の社会や経済も底上げがなされていくという形で未来を切り開いていこうと言うことだと思います。

 志位 そうだと思いますね。先ほど中野さんが、ジェンダーの視点は一分野の問題じゃない、すべての分野に貫かなければならない視点だとおっしゃられましたが、大事な点だと思います。国連総会が2015年に採択した「持続可能な開発目標」(SDGs)では、2030年までに達成する17の目標を決めていて、5番目が「ジェンダー平等の実現」ですけれども、ジェンダー平等はSDGsのその他の目標達成にとってのカギということが強調されていますね。たとえば貧困に終止符を打つことは、ジェンダー差別をなくすことではじめて達成しうる目標とされている。平和の問題を考えた場合にも、ジェンダーに基づく暴力によって、多くの女性が平和への期待を抱けなくなっており、その解決が不可欠だとされている。あらゆる問題をジェンダー平等の視点で取り組んでこそ人類の進歩はあるんだと。国連でもそういう認識になっているのですね。

 中野 おっしゃる通りです。

 志位 私たち日本共産党が、この問題に取り組むさいには、自己改革がいると思っています。共産党は創立98年になりますが、結党当時から男女同権をずっと掲げてたたかってきました。地方議員の中で半数が女性です。そういう先駆的な取り組みを行ってきたことへの誇りはあります。同時に、私たちも日本社会の構成員であって、ジェンダーの行動規範なり役割分業に無意識のうちに縛られたり、浸透してきたりということが起こりうるし、現にあると思うんですよね。

 私は、ジェンダー問題を考える集会に出た時に、ある方から、「共産党の事務所に行ったら会議をやっているのは男性ばかりだった。女性は炊き出しをやっていた。『これはおかしい』とメールを送った。そうしたら共産党は勉強会に取り組んだので、最後はほっとした」という発言でした。そういうことはあると思います。そこは私たちも世界の到達点、あるいは運動に取り組んでいるみなさんの声に耳を傾けて学ぶ、そして自己改革をやっていく、共産党という組織自身がジェンダー平等を実践する、党外の人たちとの関係でもそれを実践することが大事だと思っています。

 中野 本当にそうだと思います。われわれ大学にいても、やはり差別はある、会議に行けば男性ばかりというのはよくある話です。それは変えていかなければいけない。「男性としても何ができるか」というのは常に、自分に批判的に、自分自身の立場も踏まえながら、考えていかなければいけないなと思っています。特に政党に期待される役割という点では、ジェンダー平等指数がこれだけ低い、さらに下がっていることの一つの大きな要因は、指導的な立場にいる人の中に、女性が日本の場合には極めて少ないという問題があります。

 志位 特に政治の分野で少ないです。

 中野 そうです。「男女共同参画」を政治でも実現すると言うことで、今回の参院選において共産党は本当に真摯(しんし)に取り組んで、数多くの女性候補者を出したのですね。50%くらい?

 志位 そう、55%です。

 中野 多くの女性候補を擁立して取り組んでこられていますから、さらに多く議員を誕生させることによって、日本の国会議員の中でも女性が増えていく。そうすればそこから閣僚になる人、首相になる人ということにできるだけ早くつなげていくということになります。それぞれの暮らしの場、職場で取り組むべきことと、政治の中でより大きく取り組んでいく。そういった連携によって、変えていくことができればいいと思っています。

 志位 政治の分野で、まずジェンダー平等を実践することは、意思があればできるわけですから。私たちとしても、最大の努力をすることをお約束したいと思います。

 中野 大事だと思います。いわゆる政治主導ができるとしたら、ここですよね。

世界をどうみるか、どう働きかけるか

 志位 今度の大会で議題となる綱領の一部改定について、少しお話しさせていただきます。

 今の綱領は2004年に改定したもので、16年たちまして、とくに世界情勢にかなり大きな変化があります。ですから、情勢の変化の中で、たとえば中国に対する評価など合わなくなった部分もある。これは削除する。それから情勢の変化の中で希望ある動きもずいぶん起こってきた。たとえば核兵器禁止条約の成立、東南アジアやラテンアメリカでの平和の地域協力の流れ、国際的な人権保障の豊かな発展などです。こういう希望ある動きについては新たに綱領に書き込む。そういう改定案を提案しています。

 全体の考え方は端的にいえば二つです。一つは、20世紀に起こった世界史の巨大な変化の分析のうえにたって、21世紀の世界の発展的な展望をとらえるということです。20世紀に起こった変化はさまざまありますが、その最大のものは植民地支配の崩壊だったと思うんですね。193もの国連加盟国が誕生した。世界の構造変化が起こった。21世紀の世界はそのうえに立って、すべての国が、国の大小を問わず、対等・平等の立場で国際政治の主人公となる世界になっている。そして市民社会が国際政治の構成員として大きな役割を発揮している。こういう新しい特徴づけをしました。

 もう一つは体制論の問題です。ロシア革命から1世紀の歴史的な全体の総括をふまえて、「発達した資本主義国における社会変革が社会主義・共産主義への大道」だという命題を書き込みました。中国に対するこれまでの評価、認識を変える必要があると考えました。これまでは「社会主義をめざす新しい探究が開始された国」という位置付けをしていたのですが、2008年~09年以降の中国の一連の動きを見ますと、新しい大国主義、覇権主義が生まれている。そして人権侵害も深刻化している。これは社会主義の理念とは無縁の逆行です。もはや中国を「社会主義をめざす新しい探究が開始された国」と判断する根拠がなくなったと考えまして、この部分は削除することにしました。

 世界史を概括すると、ロシア革命、中国革命は、それぞれ歴史的意義があった革命なのですが、前者はソ連崩壊で幕を閉じ、後者もいろいろな問題が噴き出している。直接にはそれぞれの指導者の誤りという問題がありますが、より根本には遅れた国から始まったという歴史的制約があったと思うんですね。そうした歴史もふまえて、発達した資本主義国での社会変革が未来社会に進む上での大道になっているということを肝に銘じて頑張ろうという改定案をつくりました。

 中野 ええ、よくわかります。私なりのとらえ方としては、植民地支配が崩壊をして、さまざまな国において、そして市民社会の後押しを受けて一歩ずつ大きくうねりがあって変わっていく。それは、単純な言い方をするとボトムアップの流れがこの間、動いてきているということだと思います。

 志位 そうボトムアップです。

 中野 同時に、そういう動きを頭から抑え込もうというような反動的な覇権支配、大国主義的な動きがせめぎ合っているというような状況にあって、その中にまさに経済的に発展している国々において、そういったせめぎ合いが先鋭化している部分があります。そこが、中国の実態であったり、アメリカや日本での寡頭支配ということにあらわれているんじゃないかと思っています。ですから、おっしゃるとおりある程度資本主義が成熟した国々の中でその問題が先鋭化している局面はあるので、そこでのたたかいが非常に決定的になっています。この先の世界、日本に限らずですね、どういう方向に進んでいくのかということを意義付けてくれるという事になると思います。私自身も認識としては非常に一致しているところはあるなと思っています。

 志位 これは、昨年暮れに出演したBS番組でも話題になって、「ロシア革命の流れは、終わったということか」という質問もあったんですね。ロシア革命は1世紀前、第1次世界大戦という特別な状況のなかで起こったものですが、レーニンの最晩年の時期にはかなり合理的な探求もやられました。しかし出発点の遅れはたいへんなものがありました。レーニンが亡くなる直前の時期に書いたたいへん印象的な論文(「日記の数ページ」)があるのですが、そこで当時のロシアの識字率の統計が示されています。1920年の統計ですが、識字率は3割、女性は2割という数字です。“ロシアでは革命をやったが文明がない、これから社会主義に必要な文明をつくらなければならない。そのためにはひとかたならぬ努力が必要だ”――これがレーニンが強調したことでした。主要部門の電化もされていません。電化もこれからの仕事になる。こういうところから出発していく難しさがあったと思うんですね。さらに、自由と民主主義の制度も歴史もないところから開始されたわけですから、ここでも難しさがありました。

 綱領の一部改定案には、資本主義の高度な発展がつくりだし、未来社会に引き継がれていく要素として、五つの点を列挙しました。「高度な生産力」「経済を社会的に規制・管理するしくみ」「国民の生活と権利を守るルール」「自由と民主主義の諸制度と国民のたたかいの歴史的経験」「人間の豊かな個性」――これらの要素が資本主義の高度な発展の中で生まれてくる。それらすべてが、生産手段の社会化を土台にして、発展的に引き継がれ、新しい社会に進めるから、はるかに豊かで壮大な展望が開けてくるんだということを強調しました。

社会主義の新たな形での「復権」が起こっている

写真

(写真)気候非常事態の宣言を求めて行進する「グローバル気候マーチ東京」の参加者=2019年11月29日、東京都新宿区

 中野 世界の中でもいわゆる先進国と言われる国々に富が集中して偏在している。しかし、それぞれの先進国の中でも富がまた偏在して集中してしまっているわけですから、世界全体のなかにおいてより平等な、よりだれもが尊厳のなかに暮らせるような構造をつくっていくことになると、先進国の中での取り組みがまずは本当に大事になってくる。本当であればだれにでも行き渡るはずの果実が行き渡っていないということ、その構造をやっぱり壊していくことが重要ですよね。

 志位 アメリカの最近の世論調査で20代~30代の若者の半数が社会主義を肯定しているという調査がありました。女性の55%が資本主義よりも社会主義の社会に住みたいと答えているという調査もありました。アメリカでも富が偏在しているもとで、「1%の富裕層や大企業のための政治ではなく、99%のための政治を」という動きが出てきていますよね。そういう中で社会主義の新たな形での「復権」が起こっていると思います。

 遅れた国から始まった革命の流れは難しい問題を抱えていて、ソ連は崩壊したし、中国にもいろんな問題点が顕在化している。しかし、世界の資本主義の全体を見れば、貧富の格差の問題、気候変動の問題など、利潤第一主義という資本主義の矛盾が噴き出してきて、いよいよ社会主義の出番の時代が来たと思いますね。その条件が熟してきたと思います。もちろん日本の場合、すぐに社会主義に行くのではなく、まずアメリカ従属と財界中心を正す民主主義の革命が必要です。そのうえで国民の合意で進もうといっていますが、やはり世界的にはそういう条件が熟しつつある時代が来たなと思っています。

 中野 そのなかでの課題としては、新自由主義の呪縛というものをどう超えていくかということだと思うんですね。要は「この道しかない」というスローガンに典型的にあらわれたように、日本でいえば安倍政権のようなかたち、大企業への従属であるとか、支配であるとか、アメリカへの従属のような道しかないと思い込まされている人はまだいっぱいいると思うのです。そういう方たちに、再び希望を持ってもらえるような違った選択肢があり得るんだという、橋渡しがどうやったらできていくのかということは、緻密に考えていくことが必要だと思っています。

 志位 現実にある矛盾の解決を本格的にどうやるかということを考えたときに、中野さんの言われる違った選択肢が見えてくるのではないかと思うんですね。たとえば気候変動の問題で、パリ協定が結ばれて産業革命前から平均気温上昇を1・5度に抑えるという目標が出された。これは画期的な目標ですが、いまの各国の目標を積み上げると3・2度になる。人類の生存にとって大変な危機になります。これはもちろん、資本主義の枠内でも緊急の取り組みをやって解決をはからなければなりません。同時に運動をやっている方々の中から利潤第一主義――環境より利潤が上だというシステムで解決できるのか、システムを変える必要があるのではないかという声がずいぶんと聞こえてきます。それを社会主義と言わなくても、私たちが構想している社会主義と、方向性を共有できるのではないかと思うんですね。貧富の格差、気候変動――こうした大きな世界的な問題の解決のために、今の体制でいいのかということを問いかけていくことがたいへんに大事だと思っています。

 中野 ある意味、若い人たちはそのことが体感としてあって、すでに動き始めているということもあります。そこで問われるのは、その上の世代、私もまもなく50歳になるんですが、それくらいの世代のところがどうやってこれまでの旧来型の発想や前提から乗り越えて、そことうまく連携していけるのか、ということです。未来を若者たちから奪わない、できるだけ立て直していって、次の世代にバトンタッチすることができるか――そういう意味での環境整備です。環境問題に限らず、世代間の正義ということから考えても、分配・平等というところに関しては未来を先食いしてしまうような政治のあり方、経済のあり方をこれ以上許してはいけないということではないでしょうか。

 志位 本当にそうですね。

 中野 ジェンダー平等や気候変動の問題は、若い人だけではなく中高年以上に関しても、共産党が綱領に書き、積極的に発信していくというのは、すごい意義がある、深いと思います。というのは、実はこれ、イギリス労働党のコービン党首の失敗でもあるわけですよ。コービン氏の場合には、かなりストレートに貧困の問題だけでいってしまったので、いわゆる「オールド左翼」というレッテル貼りをされやすいのです。この問題は重要で、昔から言っているとても大事なことだけど、ストレートにそれだけいくと、新しみがないように見えちゃうのです。

 なので、イギリスや日本みたいに新自由主義が浸透してしまい、いまだに呪縛となっている国だと、一足飛びにそのオルタナティブ(代案)というところまで行きにくいので、ジェンダーの問題や気候の問題などの先進的と言える問題と、さらに生活を底上げしていかないとだめでしょ、ということで組み合わせるというのが非常に重要だと思います。

 志位 ジェンダー平等という問題も、もちろんこれは現代における緊急課題だと思うんですが、大きな展望としては搾取がなくなることによって、両性の関係が、あるいは性的なマイノリティーといわれる方の関係も含めて、ほんとうの意味での愛情だけで結ばれた関係になっていく。エンゲルスの『家族・私有財産・国家の起源』をみますと、そういう展望が書いてありますよね。そういう展望ももって、この問題に取り組むことが大切ではないかと思うんですね。

追及と同時に未来を語る

 中野 そういう新しい試みや、未来の展望で、希望を自分たちの手で作っていくということは、市民と野党の共闘をまとめる中でも非常に重要なことだと考えています。今の政権があまりにもひどいので、ともするとこのベースで反対をし、追及をしなくちゃいけないと、時間ばかりが過ぎていくということがあるじゃないですか。それだけではなくて、この間、共産党やその他の立憲野党にしても取り組んできたように、どうやって未来を用意するのかということについても同時に発信を強めていく。不正の追及と同時に、ここにさらに力を入れていきたいですね。

 志位 そうですね。本当にそこは両方ないといけませんね。追及と同時に、どういう未来をつくるのか、そこを魅力をもってどれだけ伝えることができるか。発信できるのか。その両方がないと、野党に任せようとはなりませんから。

 中野 そもそも、未来について、そういうことを考えているから、安倍政権のやり方はおかしいと言ってきたのです。反対するために攻めにかかっているわけではそもそもなかったわけです。(笑い)

 志位 その通りですね。たとえば、野党政権ができたら真っ先にやらなければならないのは、安倍政権によって壊された政治の大事な価値を再建することです。安保法制の廃止、集団的自衛権行使容認の閣議決定の廃棄などです。安倍政権によってゆがめられた行政システム、官僚システムも再建していく。隠されてきた文書もすべて明らかにする。いろいろな不正もあらいざらいすべて出す。これだけでも相当な大仕事です。

 それをやりながら同時に、目の前の切実な暮らしの悩みにどうこたえるか。みんなが尊厳をもって生きられる社会へ一歩でも二歩でもどう変えていくか。たとえば、選択的夫婦別姓ということは政治が決断すればすぐできるわけですから、そういうところからまず手を付けて前進していきたいですね。

 中野 まったくおっしゃる通りだと思います。やはりそれは一体にやるべきことであって、そのへんまで野党のうちに話し合いを深めていくことができればいいと思います。

若者の声に耳を傾けるところから始まる

 中野 未来についての発信という点では、私は若者の声に耳を傾けるところからやっぱり始まると思うのです。「シールズ」のメンバーが言っていたことですが、若者の政治離れじゃなくて、政治の若者離れが問題だと。だから、やっぱり政治にかかわっている人たちからすれば、若者たちの声を聞くというところから始めないといけない。「こうしてくれ」「ああしてくれ」という話では当然ないわけですからね。

 志位 耳を澄まして、若者の声を聞く、ということですよね。

 中野 それがやっぱり、入試改革のように、実際に政治を動かしていくことにつながっていくわけですから。

 志位 まさに、高校生と受験生のみなさんの声で、あれだけ政治を動かしたわけですからね。若い方々には、声を上げれば政治は動くという実体験になったと思います。フラワーデモにも参加して話を聞きますと、みんな本当につらい体験をお話しされるので、「この話は最後にどうなるんだろう」と思って、聞くんですけれども、しかし、あそこで話すことで未来を取り戻すといいますか、尊厳を取り戻すといいますか、そういう話になり、最後は温かい拍手で終わる。

 性暴力の問題でも、気候変動の問題でも、若い人たちが、本当に創造的な活動を始めている。そういう声に耳を傾けて、一緒になって政治を変えていくという年にしたいですね。

 中野 それが、若者への一番のメッセージですね。

 志位 今日は、どうもありがとうございました。


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