2019年12月4日(水)
主張
女川原発の「適合」
住民の不安にこたえていない
原子力規制委員会が先週、東北電力女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)について、再稼働に必要な新規制基準に「適合」するとの審査書案を了承しました。審査書案に対する国民からの意見公募(27日まで)を経て、来年初めにも正式決定する方針です。
女川原発は、2011年3月の東日本大震災の際、被災した原発です。避難計画の実効性をはじめ、多くの不安や疑念は全く解消されていません。住民の声に逆らい再稼働をおしすすめることは許されません。
重大事故と紙一重に
東日本大震災の被災原発で審査書案が「適合」とされたのは、日本原子力発電の東海第2原発(茨城県)に続き2基目です。
女川原発は、当時の耐震設計の目安の基準地震動を上回る激震とともに、高さ約13メートルの津波に襲われました。震災時、外部電源5系統のうち4系統が失われたほか、原子炉建屋に海水が流れ込むなど、重大事故と紙一重の深刻な事態となりました。火災も発生し、2号機の原子炉建屋は1130カ所のひび割れが見つかりました。
女川原発は東日本大震災の震源地に近いところに立地し、もともと地震や津波のリスクの高さが指摘されています。国の地震調査研究推進本部によると、女川原発が面する宮城県沖は、2011年までの80年余にマグニチュード7クラスの地震が6~7回起きています。今後30年以内の発生確率は90%とされます。規制委の審査に時間がかかったのも、それらの危険を無視できなかったためです。規制委は、海からの高さ29メートルの防潮堤を設置するなどの東北電力の「対策」を了承しましたが、これで安全という保証はありません。
見過ごせないのは女川原発2号機の原子炉が甚大な事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型だという問題です。福島第1原発事故後に再稼働した原発はいずれも加圧水型です。沸騰水型の再稼働を促進させたい狙いがあるとも指摘されています。
原発事故発生時の住民の避難計画の実効性も疑問だらけです。女川原発は牡鹿半島のつけねに位置しており、半島の多数の住民が安全に避難できるのは困難という声が相次いでいます。
原発から半径30キロ圏に住む石巻市民が11月、同市と宮城県を相手に、再稼働の事実上の前提となる地元自治体の同意の差し止めを求める仮処分を、仙台地裁に申し立てました。県のガイドラインをもとに市が作成した避難計画では避難ルートで渋滞が起きる、高齢者の負担が重すぎるなどの問題点をあげています。また女川原発再稼働の是非を問う県民投票条例制定を求めた署名は、11万人にのぼりました。同条例案は県議会で自民・公明が否決しましたが、住民の声を真剣に受けとめるべきです。
再稼働の推進をやめよ
女川原発の安全対策には、テロ対策施設の工事費を除いても約3400億円もかかるように、「原発のコストは安い」という主張は成り立ちません。世界でも、高コストの原発が見放され、撤退の動きが目立っています。原発再稼働に固執する安倍晋三政権の政策が根本から問われています。
すでに廃炉が決まった女川原発1号機に続き、同2号機と3号機も廃炉にすることが必要です。