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2019年11月27日(水)

政治考

徴用工判決と日韓請求権協定

“国際法の発展からの検討必要”

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(写真)会談を前に握手する茂木敏充外相(右)と韓国の康京和外相=23日、名古屋市中区(代表撮影)

 日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)は韓国政府の破棄通告による失効期限(23日午前0時)の直前に、韓国が通告の効力を停止し、土壇場で失効を回避しました。背景には対中軍事戦略にGSOMIAが不可欠とする米国の強い圧力があったとみられます。

 日米韓の軍事協力にさえ混迷をもたらした事態の本質は、昨年10月の、元徴用工への賠償金支払いを日本企業に命じた韓国大法院判決をめぐる日韓の激しい対立です。安倍政権は同判決を「国際法違反」「日韓請求権協定違反」と批判し、報復として貿易制限を強めました。韓国は対抗措置としてGSOMIA破棄を通告していました。

立場を超え一致

 状況の根本的打開には徴用工問題の解決が不可欠との見方は、立場を超えて一致しています。大法院判決が1965年の日韓請求権協定に違反するという安倍政権の主張について、国際的な人権の発展の観点から考えます。

 安倍政権は、昨年の判決直後、65年の請求権協定によって「個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではございません」(河野太郎外相=当時、昨年11月14日の衆院外務委員会)と認めました。他方で外務省は、「しかし、裁判所に行ったときには、それは救済されないと両国が約した」(三上正裕国際法局長=当時)と答弁しました。「裁判による救済」が請求権協定で否定されたというのが安倍政権の主張の中心です。

裁判受ける権利

 これに対し「徴用工問題の解決をめざす日本法律家有志の会」の川上詩朗弁護士は、被害者の迅速な救済を呼びかけた日韓法律家の「共同宣言」発表の記者会見(20日)で、「裁判を受ける権利は、現時点で被害者個人に国際人権法上認められている権利だ。その制約が許されないなら、訴権を奪うとか、司法的に救済されないという判断自体が問題だ」と批判。「行政府と司法府の関係からは、仮に日本政府と韓国政府が『いかなる主張もできない』と約束しても、裁判を受ける権利、司法的救済を受ける権利を奪う義務を韓国側が負ったとまでいえないのではないか」と述べました。

 元外務省国際情報局長の孫崎享氏は、「請求権協定締結の翌66年に、国際人権規約が採択され76年に発効した。日本は79年に批准している。外務省が65年の請求権協定ですべて説明すること自体に無理がある」と指摘。「76年以降の新しい国際潮流が、まさに国家合意で個人の権利を制約するという請求権協定の立場を覆した」と強調します。過去の協定だけでなく、その後の国際法の発展全体を検討しなければならないとの指摘です。

「国際法違反」は安倍政権

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(写真)日韓法律家共同宣言で記者会見する日本の弁護士。左から2人目が川上詩朗弁護士=20日、都内

 1965年の日韓請求権協定では、日本が無償3億ドル・有償2億ドルの経済協力を行う一方、請求権の問題が「完全かつ最終的に解決された」と規定し、その文言からは一切の請求ができないようにも見えます。しかし歴代政権は、消滅したのは「国対国」の外交保護権であり、「個人の請求権は消滅していない」とし、現在もその立場です。

 48年の世界人権宣言8条は、すべて人は「基本的権利を侵害する行為に対し、権限を有する国内裁判所による効果的な救済を受ける権利を有する」と規定。66年の国際人権規約2条3項はこれを具体化しました。これらの規定からも、「国家間の合意で個人の請求権を消滅させられないのは当然」と理解されています。

現時点での解釈

 では「裁判を受ける権利」はどうか。

 もともと外務省は、「協定上外交保護権を放棄した、そして関係者の方々が訴えを提起される地位までも否定したものではない」(柳井俊二条約局長=当時、92年3月9日の衆院予算委員会)としていました。「権利はあるが裁判所に訴えられない」との主張は、2000年代になって従来の見解を大転換し強まってきたものです。

 しかし世界人権宣言10条や国際人権規約14条は「裁判を受ける権利」を明記しています。日本国憲法32条も「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と規定し、これは外国人にも保障されます。

 国際司法裁判所のナミビア事件における勧告的意見(1971年)は「国際文書は、解釈の時点において支配的な法体系全体の枠内で解釈適用されなければならない」とします。

 この規定をめぐり明治学院大の阿部浩己教授(国際法)は、「2019年の時点での支配的体系の枠内で解釈適用する。国家中心から人間中心、被害者中心へと変わっている現時点での法体系全体の中で、日韓請求権協定を改めて解釈する必要がある。どんな条約も人権に反する解釈はできない」と述べました。(9月5日、日本記者クラブでの講演)

 日韓請求権協定に詳しい新潟国際情報大の吉澤文寿教授は「権利は消滅していないが、裁判所で救済されないと両国が約した」と外務省がいうなら、「それが明示されている合意文書を示す必要がある。現在までに公表されている合意文書に書いてあることは外交保護権の消滅のみを示している」と指摘します。請求権協定が、裁判的救済を否定したとする根拠も不明確なのです。

 「裁判を受ける権利」が協定で消滅したとする安倍政権の対応こそ「国際法違反」ではないでしょうか。

不法行為の責任

 徴用工問題で問われているのは、植民地支配のもとでの反人道的不法行為の責任です。その不法性を認め被害者の名誉と尊厳を回復することが必要です。

 ところが安倍政権はいまだに、植民地支配を「合法」としており、全く無反省の立場です。ここにこそ問題の根源があります。

 20世紀に進んだ植民地支配の崩壊という世界の構造変化が、いま国際政治を動かす大きな力を発揮し始めています。そのもとで、民族の尊厳や国際的人権尊重の観点から、過去の植民地支配の不法性を問いなおす声が広がりつつあります。そこでのキーワードは人権です。国際人権規約2条の「人権侵害に対する効果的救済を受ける権利」の精神を背景に、アメリカやオーストラリアなどで先住民への抑圧に対し謝罪、賠償が行われる例も現れています。

 「被害者と人権の側にたって国際秩序をつくり直すグローバルな潮流の中で、日韓請求権問題も取り上げる必要がある」(前出の阿部教授の講演)のです。(中祖寅一)


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