2019年11月13日(水)
教員「変形労働制」の参考人意見陳述(要旨)
12日の衆院文部科学委員会で行われた、公立学校の教員に1年単位の変形労働時間制を導入する給特法改定案についての参考人2氏(嶋崎量・日本労働弁護団常任幹事、工藤祥子・神奈川過労死等を考える家族の会代表)の意見陳述(要旨)は次の通りです。
命・健康に危険な制度
日本労働弁護団常任幹事・弁護士 嶋崎量氏
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公立学校の教員は給特法で教職調整額を支給する代わりに、時間外労働手当などが支給されず、超勤4項目を除き時間外労働を命じることはできないというのが建前です。教員が情熱を傾ける部活動が労働でないというのは、法律実務家からするとあり得ない不可解極まりないものです。
そもそも労働基準法がなぜ残業代の割増賃金の支払いを命じるのか。端的に言えば長時間労働の抑制です。しかし、給特法は残業代支払い義務が課されず、使用者による労働管理も曖昧(あいまい)で、教員に過大な業務を与えることをためらわないようになり、長時間労働まん延の元凶になっています。この問題に切り込まずに、教員の長時間労働の是正はなし得ません。
またガイドラインでは、超勤4項目以外の業務は労働ではないとの解釈には手をつけず、労働ではないはずの部活指導などの時間も含めて勤務時間として管理するとしています。労働ではないのにガイドライン上は勤務時間として在校等時間だなどという欺瞞(ぎまん)的概念で管理することは、本来取り組むべき給特法改正に目を背けるものです。
次に5条、休日のまとめ取りには賛成ですが、その手段としての1年間の変形労働時間制には合理性がありません。休日まとめ取りを可能とする条例を地方公共団体が制定するよう促す法律を国会でつくればよいのです。
1年間の変形労働時間制は、憲法に由来する労基法の1日単位、1週間単位の労働時間規制の枠を取り払う、労働者の命や健康にとって危険な例外的制度です。この法案は労使協定もない、労働基準監督署への(労使協定)の届け出もありません。
1年間の変形労働時間制は、残業代不払いの脱法手段として悪用されていますが、給特法のある教員は、そもそも残業代がゼロです。導入の狙いは繁忙期の残業時間を見せかけ上減らすことにあるとしか考えられません。
給特法により長時間労働を放置した教員の職場環境を固定化し、目をそらし、さらに労基法の規定もゆがめる1年単位の変形労働時間制には断固反対します。
過労死の実態把握を
神奈川過労死等を考える家族の会代表 工藤祥子氏
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私の夫は2007年6月にくも膜下出血で40歳で突然他界しました。家族の会で私が把握した教員の過労死では、1978年からの脳心疾患の死亡事案35件中、夏休み前は6月が4人、5月が3人と、この2カ月が年間で最も多い数です。長期休暇まで心身ともにもたないのです。
1年単位の変形労働時間制で、見かけの時間外労働は減る一方、この時期の労働時間が合法的に増え、過労死を促進してしまいます。夏休みのまとめ取りには賛成です。
9月から始めた1年単位の変形労働時間制の撤回を求めるインターネット署名では、3週間で3万3155の署名と665のコメントが集まりました。「休息も取れないのに、繁忙期に所定の時間が長くなれば過労死してしまう」など不安の声がいっぱいです。
私も元小学校教師でしたが、多忙と夫の喪失感や子育ても重なって倒れ離職しました。一貫した現場の声は、過重勤務防止に必要な教員の増員と業務の削減を求めるものです。これが充実していたら、夫は過労死しなかったかもしれず、子どもたちはもっと先生と話せたり、しっかり準備された授業を受けられるでしょう。
国は教員の過労死を把握していないと、萩生田(光一文部科学)大臣は答弁しました。年間400~500人の在職死亡者、5000人以上の精神疾患離職者、多くが過労死ラインにいる業種であり、その原因や実態の把握・分析なしに教員の業務改善はできません。