2019年10月30日(水)
厚労省の424病院再編リスト
地方から猛反発
“住民にとって医療サービス後退”
地域医療を担ってきた公立・公的病院の再編・統合を迫る安倍政権の強引な計画に、自治体や医療関係者から猛烈な批判があがっています。発端は、厚生労働省が9月に突然、「再編や統合の議論が必要」とする公立・公的病院など424病院のリストを公表したことです。批判の強さに慌てた同省は全国7カ所で釈明の「意見交換会」を開催する事態となっています。
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「(リストに病院の)名前があがったことで、将来性がないという材料にされ、看護師の引き抜きがもう始まっています。住民もとても不安がり、職員が説明に追われている状況です。今後の職員採用もどうなるのか、不安なことばかりです」
仙台市で23日開かれた意見交換会で、福島県の公的病院の関係者はリストに病院名が記載された衝撃をそう訴えました。リストにあげられたのは、自治体が運営する公立病院と日本赤十字などが運営する公的病院など地域医療の中核を担っている病院ばかりです。
知事会などが抗議
リスト公表に、全国知事会、全国市長会、全国町村会は3会長連名のコメントで、「地域の個別事情を踏まえず、全国一律の基準による分析のみで病院名を公表したことは、国民の命と健康を守る最後の砦(とりで)である自治体病院が機械的に再編統合されることにつながりかねず、極めて遺憾」と抗議の声をあげました。福岡市での意見交換会でも病院関係者から、「病床(入院ベッド)を削減すれば住民にとって医療サービスが落ちる」(福岡県)、「人口減少に対応すると言うが、周産期医療がなくなった地域ではすでに子育て世代が住まなくなっている」(熊本県)などの声が相次ぎました。
問題の背景には国の医療費抑制の動きがあります。安倍政権は都道府県に「地域医療構想」を策定させ、同構想に基づいて公立・公的病院ごとにベッド数などを見直すよう求めてきました。
協議に水浴びせる
仙台市での意見交換会で宮城県の公立病院関係者は、病院再編に一定の理解を示しつつも「地域医療構想が始まり、みんなで協議をしているのに水を浴びせたのが厚労省だ」と批判しました。
鹿児島大学の伊藤周平教授(社会保障法)は、人口減少に合わせた医療提供体制の縮減が必要だとの議論について、「地方では、産婦人科や小児科をはじめ医療はむしろ足りていない。人が減っていくから、ベッドを減らせばいいとは単純にならない。安倍政権は病院再編が思い通りにいかないので焦っているのではないか」と指摘します。
安倍政権 病床数削減を執拗に要求
背景に財界のいら立ち
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公立・公的病院など424病院を名指しして、再編・統合の議論を求めた厚生労働省のリスト―。震源は、官邸に設けられた経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)、なかでも民間議員として会議に参加している財界人のいら立ちです。
思惑通り進まず
安倍政権は、人口の多い「団塊の世代」が全員75歳以上になる2025年までに医療や介護にかかる費用を抑える仕組みをつくらなければ社会保障制度が持続不可能になると主張。医療分野では看護師の配置が手厚い急性期病床をはじめとした入院ベッド数削減を、自治体などに執拗(しつよう)に求めてきました。
14年に成立した「医療介護総合確保推進法」は、都道府県に対し、25年時点を見据えてベッド数など医療提供体制を見直す「地域医療構想」の策定を要求。日本共産党の小池晃書記局長の参院厚生労働委員会(17年6月)での質問によって、地域医療構想がそのまま実行されれば、25年時点のベッド数が本来必要な数より33万床も少なくなることが明らかとなりました。
安倍政権は、17年の「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)で、18年までの2年間を地域医療構想の具体化に向けた集中的な検討期間に指定。18年の「骨太の方針」では、公立・公的病院は、「高度急性期」や「急性期」といった地域の民間病院では担うことのできない機能に重点化するとの方針が決められました。
財界のいら立ちは、この病床削減が思惑通りに進んでいないことにあります。
今年の「骨太の方針」が閣議決定される直前の5月31日の経済財政諮問会議に、経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)、サントリーホールディングスの新浪剛史社長ら民間議員4氏が連名で社会保障制度改革に関する意見書を提出。病床数削減が地域医療構想通りに進んでいないことを問題視し、公立・公的病院について「適切な基準を新たに設定した上で、期限を区切って見直しを求めるべき」だと主張したのです。同時に「民間病院についても病床数の削減・再編に向けた具体的な道筋を明らかにすべき」だと求めました。
民間議員の意見書は「骨太の方針」にそのまま反映され、厚労省は「骨太の方針」に基づいて、424病院の選定作業を進めたのです。見直し期限は「遅くとも20年9月」とされました。
今後の社会保障制度のあり方を議論した28日の諮問会議でも、経団連の中西会長ら民間議員が、医療費抑制の方策として官民合わせて約13万もの病床削減を提言。首相もベッド数の削減などを着実に進めるよう厚労相に指示しました。
選定方法も疑問
医療や自治体の関係者からは、厚労省の選定方法にも疑問や批判があがっています。
厚労省は今回、各病院の手術件数などの診療実績と、車で20分圏内に代替可能な医療機関があるかという基準で、「高度急性期病棟」などがある全国1455の病院を分析。再編・統合対象を抽出しました。
札幌市で23日に開かれた厚労省と自治体・病院関係者との意見交換会では、医療関係者から「分析対象に精神科や感染症などの医療行為が入っていないのはなぜか」「車で20分といっても、雪が降ればそれ以上かかる」との声が上がりました。
(この特集は、佐久間亮、藤原直、前野哲朗、松田大地が担当しました)