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2019年10月26日(土)

きょうの潮流

 その日、東京の市中はお祭り騒ぎだったといいます。大日本帝国憲法が発布された1889年2月11日。あらゆる祝い事を一緒くたにしたような祭典。国家的な祝日に「万歳」が結びつけられた瞬間でした▼古くは天皇の慶事に「バンゼイ」と唱えることはありました。しかし大勢がいっせいに「ばんざい」と叫んで手をあげる形が現れたのは、国をあげたこの祝日以後だといわれています▼当時の様子を永井荷風はこう記しています。「国民が国家に対して『万歳』と呼ぶ言葉を覚えたのも確か此の時から始まつたやうに記憶してゐる」。近代の民衆史を専門にした牧原憲夫さんが著書で紹介しています▼〈万歳・日の丸・君が代・御真影〉の4点セットが熱狂的な祝祭空間のなかで一挙に出現した、多くの民衆にその実感を共有させたところに「憲法祭」の歴史的な意味があった―。「万歳」とは、天皇と民衆の関係を転換させる決定的な装置であったと牧原さんは説きます▼時代を逆戻りさせる情景でした。神から天皇の地位を与えられたことを示す高御座(たかみくら)を仰ぎながら「天皇陛下万歳」と声を張り上げる安倍首相。今の世にそぐわない異様な姿は戦前の臣民のよう▼この時期に思い起こさせるのが学徒出陣です。76年前、旧国立競技場の前身にあたる明治神宮外苑競技場で万歳がくり返され、日の丸が振られるなか、戦地に送り出された若者。その悲しみを二度と味わいたくない。戦後の原点を忘れた人たちに国民を代表する資格はありません。


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