2019年6月30日(日)
主張
ハンセン病の家族
尊厳回復へ国は責任を果たせ
ハンセン病患者への国の誤った隔離政策によって激しい差別を受け、人生を台無しにされたとして、家族561人が国に謝罪と損害賠償を求めた集団訴訟で、熊本地裁は国の責任を認め、損害賠償の支払いを命じる判決を言い渡しました。判決は、強制的隔離政策による被害は元患者本人だけにとどまらず、家族にも重大な人権侵害があったことを明確に認めました。さらに差別や偏見を除去する義務を怠った国を批判しました。画期的な判決です。国は被害に背を向ける姿勢を改め、被害者の願いにこたえるべきです。
憲法に反する「人生被害」
国のハンセン病隔離政策については、元患者に賠償を命じた熊本地裁判決(2001年)が確定しています。当時国は謝罪し、09年施行のハンセン病問題基本法は元患者の名誉回復を国に義務付けましたが、家族の受けた被害は公的に認められませんでした。家族の被害について、賠償を命じた司法判断は今回が初めてです。
判決は、隔離政策が「大多数の国民らによる偏見差別を受ける一種の社会構造を形成し、差別被害を発生」させたことを指摘しました。そして、家族にもたらした被害として、▽学校からの就学拒否や村八分で、人格形成などに必要な最低限度の社会生活が失われた▽結婚差別で幸福追求の基盤を喪失した▽就労拒否による自己実現の機会喪失や経済的損失があった―ことなどを具体的に挙げました。これらは「個人の尊厳にかかわる人生被害」「生涯にわたって継続し得る不利益は重大」であると述べ、元患者の家族が、隔離政策によって、憲法13条が保障する人格権などの重大な侵害を受けたことを認定しました。一家離散や学校や地域での過酷ないじめと排除など、言葉に尽くせないような人生を強いられてきた家族の思いに寄り添った判決といえます。
注目されるのは今回の判決が、国策により生まれた差別や偏見を取り除く義務が国にはあったにもかかわらず、それを行わなかったことを断罪したことです。ハンセン病の政策は戦前の1907年制定の法律を発端に強制的隔離が本格化しました。ハンセン病は「恐ろしい伝染病」という全く誤った認識が長年、国民に植え付けられていったのです。「らい予防法」が廃止されたのは96年でした。しかし、患者・家族の置かれた過酷な状況は、その後も続きました。
判決では96年時点で、国は家族への差別被害を認識していたのに、偏見差別除去義務を負う法務省は人権啓発活動をまともに行わず、文部省・文部科学省も偏見に基づかない正確な知識による教育ができる措置を十分とらなかったことを違法としました。ハンセン病への差別を除去するための国の義務まで踏み込んだ判断は、元患者への賠償を認めた01年の熊本地裁判決でもなかったものです。
全面的な解決を急ぐ時
今回の裁判で原告になった人の中でも親族への影響などを気にして実名を明かせない人が数多くいます。ハンセン病への根深い差別と偏見を解消していくための取り組みを強めることは不可欠です。国は控訴するのでなく、差別を放置してきた責任を反省し、被害者への謝罪、尊厳回復、補償をはじめ全面解決に向け、立法措置も含めて対応を急ぐべきです。