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2019年6月29日(土)

ハンセン病政策 家族の被害 初認定

熊本地裁 国の責任を断罪

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(写真)原告が国の責任を認めさせる判決を勝ち取り、喜びにわく市民ら=28日、熊本地裁前

 国の誤ったハンセン病の強制隔離政策によって、患者の家族というだけで深刻な差別被害を受けたとして、20~90代の561人が国に謝罪と1人あたり550万円の損害賠償を求めた集団訴訟の判決が28日、熊本地裁(遠藤浩太郎裁判長)でありました。家族に差別被害を及ぼした国の責任を初めて認め、原告541人に対し33万~110万円(総額3億7675万円)の支払いを命じる一方、残りの20人が主張した被害については国の法的責任を認めず、請求を棄却しました。

 裁判で原告らは、親や兄弟姉妹が隔離され、過酷ないじめや差別を受け続けたことによって、誰にも言えない秘密を抱えた苦しみや、親たちへ一時的な憎しみを向けざるをえなかったつらさなど、「人生被害」を語りました。

 ▽国の責任(隔離政策の違法性)の有無▽時効が成立するかどうか―を主な争点に、裁判所の判断が注目されました。原告側は、隔離政策は患者だけでなく、家族も標的にしていたとして国は家族の被害回復をはかる責任があると主張。国は家族に差別被害が及んだとしても、隔離政策の以前からあった偏見・差別によるものとして、責任はないと反論しました。

 判決は、国が主張した時効の成立を退け、隔離政策の廃止後も含め国が差別・偏見を取り除く義務に反したとして、国の不作為責任を認めました。

 林力原告団長は、国の責任を認めさせた判決を力に「日本の人権確立に頑張っていきたい」と語りました。


解説

差別一掃 スタートの日

 国の誤った隔離政策によりハンセン病患者の家族が差別被害を受けたとした訴訟で、熊本地裁は、隔離の必要性がなくなっていた1960年以降も隔離を維持し、差別被害を取り除こうとしなかったとして国の責任を認めました。

 その上で、隔離政策の廃止(96年)後においても、厚生労働相と国会議員だけでなく、法務・文部科学両相も偏見差別を取り除く義務に反したことを新たに認定。国が総力を挙げてハンセン病の差別解消に取り組むことを義務付けた今回の判決は、家族の被害の回復を含め今後、全面解決を目指していく上で画期的な意義があります。

 一方、原告全員の賠償が認められず、一部棄却される結果になったことについて弁護団は「不当と評価せざるを得ない」とする声明を発表。賠償額が請求を下回ったことについて原告団の黄光男(ファン・グァンナム)副団長は、「人生を台無しにされた家族がいっぱい。勝訴と言っても人生は取り戻しようがない」と悔しさをにじませました。

 今後、原告団、弁護団は「勝訴判決を受け入れろ」と国に控訴断念を迫り、ハンセン病問題の全面解決をめざすたたかいを始める方針。司法が認定した重い責任を受け止める国の対応が問われるのはこれからです。

 2001年、回復者(元患者)たちが隔離政策の過ちを認めさせた「らい予防法違憲国賠訴訟」の熊本地裁判決の際、控訴断念に当時の政府を追い込んだのは、原告団の運動を後押しした国民世論の高まりでした。

 徳田靖之弁護団共同代表は、「国民の力で判決を確定させることを通し、国全体から差別偏見を一掃する。そういう運動にしていくスタートの歴史的な日にこの日をしたい」と語りました。市民一人ひとりがこの問題と向き合うことも求められています。(岡素晴)


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