2019年4月8日(月)
主張
温暖化対策の戦略
「脱炭素」へ具体的に踏み込め
地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」が義務づけた温室効果ガス排出抑制についての長期戦略づくりに向けた議論を続けてきた政府の有識者懇談会が提言をまとめました。「脱炭素社会」の実現という理念を掲げましたが、それをどう実現するか、具体的に踏み込めていません。石炭火力発電に依存する現状からの転換策も不明確で、原発の推進も盛り込まれています。
安倍晋三政権は、提言をたたき台として長期戦略の策定に取りかかりますが、このままではパリ協定の目標達成に向けた世界への責任は果たせません。
「野心的」とは言えない
2016年発効のパリ協定は、産業革命前より世界の平均気温の上昇を2度より十分低く抑えるようにし、1・5度に抑える努力を追求する目標を掲げています。
昨年10月に公表された国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「1・5度特別報告書」では、1・5度に抑えるには、世界の温室効果ガスの排出量を50年には実質ゼロにする必要があるとしています。
長期戦略を提出していないのは主要7カ国では日本とイタリアだけです。政府は6月のG20サミット(20カ国・地域首脳会議)に向けて長期戦略をまとめるとして、昨年夏に企業や経済団体のトップ、学者などで構成する懇談会を発足させ、議論を続けてきました。
今回の提言は、温室効果ガスの実質排出ゼロとする「脱炭素社会」をめざすことを明記しました。しかし、目標の達成時期は「今世紀後半のできるだけ早期に」とあいまいにしています。排出ゼロが仮に70年ごろだと、世界の平均気温の上昇は2度程度になり、それ以降さらに上がる可能性が大きくなります。
提言は、従来の「2050年まで80%削減という長期目標」のままであり、これでは首相が強調する「野心的な提言」とは言えません。目標の抜本的な見直しこそが求められます。
とりわけ提言で問題なのは、「石炭火力発電等への依存度を可能なかぎり引き下げる」というだけで、石炭火発頼みからの脱却方針が明示されていないことです。国内で約30基もの石炭火発の建設計画が進んでおり、このままでは将来にわたり、温室効果ガスが大量に排出され続けます。「パリ協定と整合的に」というならば、30年までに石炭火力発電を全廃させるしかありません。海外の石炭火発支援の中止を含め、根本的な転換をはかるべきです。
こうした後ろ向きの姿勢の大本にあるのが、昨年閣議決定した「エネルギー基本計画」です。同計画は石炭火力発電をベースロード(基幹)電源に位置づけていることに加え、再生可能エネルギー普及の足かせになっている原発を推進するものになっています。エネルギー基本計画を撤回し、エネルギー政策の抜本的な見直しが不可欠です。
地球の未来への責任
スウェーデンの高校生の行動をきっかけに始まった「気候変動ストライキ」は世界300都市以上に広がり、各国政府に温暖化対策を迫る動きとなっています。パリ協定の目標達成へ真剣な努力をすることが、地球の未来への責任です。