2019年2月5日(火)
主張
児童虐待死
悲劇断ち切る真剣な対策を
親から虐待を受けた子どもの命が失われる悲劇がまたも起きてしまいました。千葉県野田市で犠牲になった小学4年生の女児は、父親の暴力を訴えるSOSを発信していただけに、なぜ命が救えなかったのか、悔やんでも悔やみきれません。児童虐待防止法の制定から20年近く経過する中、政府・自治体の対策はとられつつあるものの、依然多くの子どもが虐待被害にあい、小さな命が奪われている現実はあまりに深刻です。悲劇を断ち切るため、各分野での真剣な取り組みが急務となっています。
「ぼう力を受けています」
「お父さんにぼう力を受けています」「先生、どうにかできませんか」。死亡した女児が一昨年の学校のアンケートに必死に記したであろう言葉は、一文字一文字が心に刺さり、無念な思いが募ります。
直後に学校は女児のあざを確認し、児童相談所は女児を一時保護しますが、その後、父親から猛反発されたことから関係行政機関の姿勢が後退し、父親にアンケートのコピーまで渡すという、絶対にあってはならないことまでしてしまいました。父親の不当極まる要求に、なぜ市の教育委員会は屈してしまったのか。転校した女児が学校を休むなど危険な兆しがあったのに、なぜ危機感をもって適切な対処ができなかったのか。関係機関の情報共有や連携のあり方などを含め、掘り下げた検証と原因究明を行い、再発防止に向け関係者が議論し改めるべき点をただしていくことが不可欠です。
昨年3月、東京都目黒区で、親から虐待された5歳女児が「ゆるしてください」などとノートに書き残して衰弱死した事件発覚後、政府は関係閣僚会議を開き、対策強化に向けた「緊急総合対策」を打ち出しましたが、現状を打開する状況にはなっていません。
2017年度の児童相談所での虐待対応件数は約13万4千件と過去最多でした。児童虐待防止法が制定された00年度の約1万8千件から7倍以上に激増しています。ところが対応にあたる児童福祉司の配置数は約1300人から約3100人と2・3倍への増であり、とても追いついていません。政府の緊急対策では、さらに児童福祉司の増員を図るとしていますが、規模もスピードも不十分です。
児童福祉司の仕事は、子どもの保護、家族のケアを含めた関係構築など複雑多岐にわたり専門的な技術や豊富な経験が欠かせません。家族との軋轢(あつれき)や個人のプライバシーに踏み込むことも避けられない仕事内容などから困難とストレスを抱える職員も少なくありません。国は児童福祉司1人が受け持つ相談事案は40件程度を目安にしていますが、諸外国と比べて過重負担と指摘されています。
深刻な立ち遅れ打開こそ
子どもの安全と命に向き合う現場が疲弊したままでは事態は改善できません。虐待への対応では早期発見が重要なカギを握ります。虐待のサインに気づける大切な場所であるはずの学校も、教員の多忙化などが丁寧な対応を阻んでいます。子どもを守る土台を確かなものにするため、構造的な問題にメスを入れ、抜本的対策を講じることが求められます。
国際的にも大きく立ち遅れている日本の児童虐待対策の現状を変え、子どもが守られる社会の実現へ力を合わせることが必要です。