2018年12月31日(月)
改悪水道法 運営権売却容易に
各首長の反応は
浜松市 市民の声で「先送り」
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水道事業の民営化を促す改悪水道法が先の臨時国会で成立(6日)したのを受け、各自治体の首長らがさまざまな反応をみせています。利益第一の営利企業から「命の水」をどう守るのか―。春の統一地方選も含め、各自治体の政策に大きな影響を与える市民の世論と運動にかかっています。
改悪水道法は、原則市町村が経営してきた水道事業の運営権を、期限付きで民間企業に売却する「コンセッション方式」の導入を、従来より容易にする内容となっています。
前のめりの大阪・宮城
「自治体にとっての選択肢が広がる」。改悪にこう飛びついたのが、維新の会の吉村洋文・大阪市長です。
大阪市では、橋下徹市長の時代から水道民営化の方針が提案されてきましたが、「民営化で安心・安全の供給が守れるのか」との市民の批判の声を受け、市議会が維新以外の全会派の反対で民営化関連議案を否決(2015年3月)。吉村市長のもとでも、民営化に反対する市民団体やNPOなどの取り組みが実を結び関連議案を廃案に追い込んできました。(17年3月)
しかし、吉村市長は、いまだに民営化に固執。今度は配水部門へのコンセッション導入に意欲を示しています。
今回の法改悪を自ら国に働きかけていたのが宮城県の村井嘉浩知事です。村井知事は、県の運営する水道3事業(上水道、工業用水道、下水道)を一体化して、コンセッション方式で運営権を売却し、管理運営を民間企業に任せる「みやぎ型管理運営方式」の導入を推進しています。法成立を踏まえ21年度中の事業開始を目指すとしています。県民の不安をよそに「日本の企業のみならず世界的な力を持った企業にも開放し、競争していただく」(10日の会見)などと述べています。
1月13日に市民が集い
一方、下水道にコンセッション方式を導入した浜松市の鈴木康友市長は、来春の市長選への出馬を表明した11月24日の会見で、18年度内としていた上水道への導入の判断について「市民の理解が進んでいない」などと述べ、先送りを表明しました。
同市で反対運動を展開する「浜松市の水道民営化を考える市民ネットワーク」は、声明で「今回市長が導入表明を先送りしたことは、市民の批判の結果だとも言えるが、市長選の『争点』隠しとも言える」と指摘。今月14日には民営化計画中止を求める1万2000人分の署名を市長あてに提出しました。
来年1月13日に、市内で「命の水を守る全国のつどい」を開く準備を進めています。
今回、民営化に疑問を呈している首長も少なくありません。鳥取市の深沢義彦市長は「もともと上水道は採算性をとるのが難しい。一方で住民生活の基本的なライフラインだ。民間運営になじむのか」と疑問を呈し「責任を持って直営で安全・安心な水を供給する体制の維持がまず重要だ」(7日の会見)と語っています。
解説
市民・自治体にリスク
コンセッション方式とは、自治体などの公的主体が水道などの公共施設を所有したまま、料金収受も含めた運営権を企業に売却し、民間事業者がもうけていく仕組みです。2011年のPFI法(民間資金による公共施設整備等促進法)改定で可能になり、空港などで導入されてきましたが、水道で導入した自治体はありません。
安倍政権はこの間、導入を促進。厚生労働省は“見込みあり”とみなす自治体の「働きかけリスト」まで作ってコンセッションの導入を各地の首長らに売り込んできました。
推進側は、民間企業のノウハウを活用した運営でコストダウンがはかられ、水道料金の抑制や老朽化対策などが進むかのように宣伝しています。
しかし、民間事業者となれば、株主配当などにも利益を回す必要が出てきます。利益が少なくなれば当然値上げを求めてきます。コスト削減の方法も問題になります。企業に運営を任せるうちに自治体の専門的な力が低下すれば監視もままなりません。契約次第では自治体ばかりがリスクを負う仕組みとなりかねません。
海外の民営化事例では料金高騰や水質悪化、不透明な経営などが問題となり、再公営化が進んでいます。(藤原直)