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2018年12月31日(月)

SOS 特別支援学校 設置基準がない

児童増加 足りない教室

 障害のある子どもが通う全国の特別支援学校で、在籍数が適正規模の2~3倍になる異常事態が起きています。教室もまともに確保できない事態に現場から「子どもの人権と教育権が侵害されている」と悲鳴があがりますが、国は特別支援学校の設置義務が自治体にあることを口実に状況を放置しています。(佐久間亮)


 「児童の増加に対応するためほとんどの普通教室を半分に仕切り、八つの特別教室を普通教室に転用してきた。来年の焦点は会議室の扱い。広い空間は体育館以外ではそこだけ。会議、音楽、体育、着替え、研修など九つの目的に使っている。なんとか残したいが」

全国有数の在籍数

 在籍数が全国有数の埼玉県立草加かがやき特別支援学校の細谷忠司校長は、11月に視察に訪れた日本共産党の県議団と草加市議団に苦しい状況を語りました。会議室はその後、来年度からの転用が決まりました。

 同校は知的障害がある小学生から高校生までの年齢の子どもを対象に2013年度に開校。在籍数は当初の217人から翌年度には早くも300人を突破し、18年度はちょうど400人。今後も毎年30人ほど増える見通しだといいます。

カーテンで仕切り

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(写真)カーテンで仕切った教室を案内する細谷忠司校長(右)。左から視察する金子まさえ、村岡まさつぐ両埼玉県議

 半分に区切られた教室は出入り口が一つしかなく、卓球台が1台入れば埋まりそうな狭さ。消防法で避難口を複数確保しなければならないため、窓から避難できる1階は壁で仕切っているものの、2階以上はカーテンで仕切っています。

 「カーテンでは声が筒抜け。子どもたちは隣のクラスが気になって集中できない。自閉症の子どもがパニックを起こすと隣のクラスの自閉症の子どもに連鎖することもある。落ち着いて学ぶ環境にはなっていない」(細谷校長)

 草加かがやき特支では作業学習として地場産業の革工芸をはじめ織物や紙すきなどに取り組んでいます。しかし、作業学習を行う「図工・美術室」は、教室不足から体育の授業でも使用。授業のたびに作業台や作業道具を出し入れしなければいけません。

 さらに、更衣室が足りずプールのとき男子は体育館のステージで暗幕を下げて着替え▽図書スペースもプレイルーム(遊びを通じた学びの場)と兼用▽せっかくプロジェクターや可動式スクリーンを備えつけた視聴覚室も普通教室に転用…。

 どうしてこのようなことが起きるのか。背景には、ほかの学校にはある国の設置基準が特別支援学校にだけないことがあります。

 幼稚園から小・中学校、高校、大学、各種学校まで当然のようにある設置基準が、特別支援学校にだけありません。文部科学省は、設置基準がないのは障害種に応じて学校ごとに柔軟な対応ができるようにするためだと主張。必要な教室の種類どころか児童・生徒数に応じた校舎や運動場の面積の基準もありません。

 その結果、全国の特別支援学校の児童・生徒数は、1997年から2017年に1・31倍になる一方、学校数は同期間に1・12倍しか増えていません。少子化のなか児童・生徒数が増えている背景には、医療技術の進歩で救える命が増えたことや障害児教育への社会の理解の進展と同時に、行き過ぎた管理教育で通常学級に居場所がなくなる子どもが増えているとの指摘もあります。

廊下で体育 ■ プールで面談

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(写真)越谷特別支援学校のぎっしりと机がつめこまれた職員室

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(写真)駐車場が足りないため運動トラックも駐車スペースに

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(写真)教材を置く場所がなく、教室に入りきらない教材が廊下にあふれる(越谷特別支援学校)

 全日本教職員組合の佐竹葉子障害児教育部長は、特別支援学校に設置基準がないことで子どもをいくら詰め込んでも法令違反にならないため自治体もなかなか学校を新設せず、300人、400人を超える大規模化の歯止めもないと語ります。

 「隣の教室の迷惑にならないよう音楽の授業で小さな声で歌おうと指導したり、体育館が使えないので体育の授業で廊下を走らせたり。保護者との面談の場所がないのでプールサイドで面談とか、冗談みたいな実話が全国にたくさんある」(佐竹さん)

医療体制手薄 ■ 通学に90分

 大規模化は教職員の労働環境にも影響を与えています。特別支援学校は1クラス3~8人で学級編成を行います。児童・生徒数の増加に伴って学級や教職員も増加し、職員室が窮屈になったり、分散化を余儀なくされたりしているのです。

 11月に日本共産党埼玉県議団と越谷市議団が訪れた県立越谷特別支援学校の職員室は、ぎっしりと机が並び、少しいすを引けば後ろのいすにぶつかる状態。小池浩次校長は「来年も人数が増える状況で、先生たちの机をどう入れるか」と頭を悩ませます。

 肢体不自由の子どもを対象にする同校には、7市1町の236人の児童・生徒が在籍。そのうち37人が痰の吸引など医療的ケアを必要としています。

 職員室がすし詰めであるにもかかわらず、教職員は不足しています。小池校長は、障害が重い児童が多く、月に1度は救急搬送がある緊張した職場に、常勤の看護師は3人しかいないと指摘。研修などで看護師の配置が薄い日は、医療的ケア児の保護者に学校での付き添いを求めることもあると語ります。

 子どもの多くはスクールバスで通学しますが、最長で90分かかるコースも。自分では姿勢を変えられない子どもも多く、長時間の通学は心身に強い負担となります。

 「職員にはピンチをチャンスにと言っているが、学区が広域になるほどいろいろな面でリスクがでてきます。児童・生徒数減が本音。看護師は倍くらいいると助かります」(小池校長)

 「子どもに合わせた学校をつくろう」。これは、養護学校(特別支援学校)義務化(1979年)の時代、当時の教職員の学校づくりの合言葉でした。しかしいま、「柔軟な対応」の名のもと学校の形に子どもたちを合わせなければならない事態が進んでいます。全国の特別支援学校でなにが起きているのか、シリーズで追います。


 特別支援学校(養護学校) 障害が比較的重い子どもを対象に専門性の高い教育を行う学校。現在、幼稚園から高等学校までの年齢の約14万人が通っています。視覚・聴覚障害以外の多くの障害児はかつて「就学猶予・免除」の名で就学を認められない状況が続きました。全員就学を求める保護者や教職員の運動に押され、国は1979年に養護学校を義務化。2007年には呼称を「特殊教育」から「特別支援教育」に改めました。


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