2018年12月25日(火)
主張
医学部入試の調査
これで差別をなくせるのか
医学部入試の不正を緊急調査した文部科学省の「最終まとめ」(14日発表)は、女性や浪人回数が多い受験生などへの差別がまん延していた実態の一端を示しました。公正さが厳格に要求される入試の根幹を揺るがす極めて重大な事態です。一方で「最終まとめ」は、大学名公表を一部にとどめた上、差別を横行させた原因や背景などの根本問題は究明していません。被害者の救済や受験生の不安解消対策についても言及していません。この姿勢で本当に差別が根絶できるのか。さらに踏み込んだ対処こそが求められます。
全体像は依然不透明
調査は、東京医科大入試で女子受験生らが差別され不合格にされた問題を契機に、医学部のある全国81大学を対象に行われました。
「最終まとめ」は、▽男子に一律加点する女子差別▽浪人生を不利益に扱う判定基準▽補欠合格者への連絡は男性や若年者を優先―などの「不適切な事案」があった9校について、大学名を明記しました。その他1校も性別や年齢で一律に差を設けた疑いがあるとして名前を記しました。
しかし、▽同窓会の推薦者のリスト作成▽面接評価で公平性が疑われる―などの事例は「疑惑を招きかねない」と指摘しつつ、大学名は明かしません。疑惑の大学は10校以上にのぼるとされており、深刻です。文科省は「大学任せ」の姿勢を改め、大学名公表をはじめ全体像解明に向け監督官庁として役割を果たすことが必要です。
「最終まとめ」は、差別や不公正がまかり通った仕組みや、それを長年許してきた“土壌”などについては切り込んでいません。
とりわけ男女差別については、男子合格率が女子より不自然に高い大学が約50校あるにもかかわらず、差別を認定したのは4校だけです。不徹底な調査と言わざるをえません。差別を指摘された大学から「女子のコミュニケーション能力が高いから」と面接で男子を優遇したことを正当化する驚くべき“弁明”が飛び出しましたが、女子への差別的扱いを容認する風潮が広く存在していることをうかがわせるものです。実際、面接時に女子のみ結婚・出産について聞かれるケースがあるとの声は後を絶ちません。ところが文科省は、面接時の質問内容などについて立ち入って調べませんでした。裁量の余地が大きい面接・論文試験を含め、入試全体の徹底的な調査・検証をしなければ、入試差別を根絶することはできません。
医学部の女性差別が、医師の長時間労働など構造的問題と結びついている点も、改めて問われています。政府が一丸となり、医療現場の労働時間短縮、女性医師支援について抜本的な対策をはかることが不可欠です。
被害救済・臨時定員増を
医学生の間で「入試差別をなくそう」との声が広がり、学生有志が呼びかけた署名は1万5千人分を超えました。こうした声にもこたえ、不合格になった被害者の救済・補償が万全に講じられるよう文科省は責任を果たすべきです。
とりわけ来年度の医学部募集定員が、追加合格者の影響で減らされ、来春の受験生が被害を受けることは、あまりに理不尽です。試験を目前にした受験生の不安を解消するためにも、臨時定員増を行うなど特別な対応が急がれます。