2018年12月21日(金)
主張
性暴力根絶の訴え
国際社会の行動が問われる
今年のノーベル平和賞は、武力紛争下での性暴力根絶を訴え続けてきた2人に贈られました。人間の尊厳を脅かす性暴力根絶と平和の取り組みを広げる画期とするために国際社会がどう受け止め、行動を始めるかが問われています。
ノーベル平和賞授賞式で
受賞したコンゴ民主共和国(旧ザイール)の産婦人科医デニ・ムクウェゲさんは、大量レイプが処罰されないことを糾弾し、被害女性を治療し救済する活動を長年おこなってきました。イラクの少数派ヤジディ教徒のナディア・ムラドさんは、自身が過激組織ISによって拉致され、性奴隷にされた体験を証言し、救済と根絶を世界に発信し続けてきました。
ノルウェー・ノーベル賞委員会は、2人の活動が、恐怖を植え付け支配する「武器としての性暴力」という戦争犯罪に世界の目を向けさせ、加害者の責任追及、根絶のたたかいにとって重要な貢献をしたことを授賞理由にしました。
今月10日の授賞式で、ムラドさんはヤジディ教徒というだけで虐殺され女性や子どもが性奴隷にされている過酷な現実に国際社会は目を向けず、解決に動かなかったと厳しく批判、各国の指導者や国際機関が少数派や被害者の保護に取り組むことを強く訴えました。
ムクウェゲさんは、自身の20年近くの体験の上に「この問題は手術室では解決できない」「残虐行為の根本原因とたたかわなければならない」とのべ、平和賞は被害者の救済と平和回復につながった場合に初めて価値あるものになると、行動を呼びかけました。
平和と人権尊重を基本理念として設立された国連は、女性への暴力撤廃を繰り返し決議してきました。10年前には国連の安全保障理事会決議(1820号)が、武力紛争地での性暴力は戦争犯罪であり、人道に対する罪、国際の平和と安全への脅威であるとして、根絶の取り組みを提起しています。
2人の訴えは、深刻な事態がいまだ継続し、解決されていないばかりか、その責任さえ明らかにされてこなかったことを国際社会に明示したものでした。紛争と暴力をうむ根本問題にメスを入れる必要があり、そのために国際機関がどんな役割を果たすのかも問われています。
ムラドさんが「沈黙したり恥じたりすることを強いる社会の慣習を拒否し、類いまれな勇気をもって」「被害者の代表として声をあげた」ことも授賞の理由です。
日本は、まだまだ性被害者に沈黙を強いる社会です。被害を訴えた女性がバッシングされ、告発した女性の人格を否定する発言が後を絶ちません。
勇気をもってセクハラや性暴力被害を訴えた女性たちの声に寄り添い、耳を傾け、その罪と責任を明らかにするたたかいを広げることが、いま求められています。
平和なくして、人権なし
世界に広がった「#MeToo(私も)」運動が告発する性被害も戦時性暴力も、根底には女性や弱者への差別と抑圧があります。武力紛争や難民発生の中で、この瞬間も世界で性暴力が起きています。誰もが暴力におびえなくても暮らせる社会、平等な権利や平和で自由に生きる環境をつくるため、国際機関の役割が一層重要になっています。正義の実現のため、ともに歩みを進めましょう。