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2018年11月21日(水)

いま言いたい2018

日本ペンクラブ平和委員会委員長 梓澤和幸さん

改憲打ち破るペンの力

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(写真)あずさわ・かずゆき 日本ぺンクラブ理事、弁護士。立憲主義回復・国分寺市民連合共同代表。『報道被害』『改憲どう考える緊急事態条項・9条自衛隊明記』ほか

 戦争と平和や憲法の問題を考えるとき、私の心の底にあるのは私自身の体験です。父は群馬県桐生で衣類の小売りをしていましたが、1943年、私が生まれて間もなく出征。店は廃業、母は、幼子2人と姑を抱えて、取り置いてあった京呉服を売り食いする生活でした。

家族に戦争の傷

 そのなかで、3歳だった兄の誠一が防火用水の水を飲んで疫痢にかかって死んでしまったのです。中隊本部で電報を聞いた父は卒倒。背後に回っていた兵士に受けとめられたといいます。この話を初めて聞いたのは小学校4年のときでしたが、笑いながら話したのです。古年兵に殴られたことなどと一緒に、軍隊生活への郷愁を思わせる口ぶりでした。

 しかし、1970年代半ば、海水浴の旅の夜、海岸の散歩から宿に帰る途中のかき氷屋で、「誠一を上野動物園に連れて行ったら喜んでなあ」といったきり、ウオーと号泣。慰めを許さない慟哭(どうこく)でした。戦争のもたらした傷と悲しみは、どこの家族にもあったのです。

 憲法改正の国民投票になってテレビCMの口当たりのよい改憲論に世の中が流されかけても、梃子(てこ)でも動かないものがある。それはこうした体験からくるものだと思います。

 同じ体験のない若い世代でも、派遣労働の不安や“保育園落ちた”といった自分の暮らしの生の体験として憲法を感ずることはできる。そういう考え方への道を引き出したい、そのように考え、日本ペンクラブ編「憲法についていま私が考えること」を発刊し12月にもシンポジウムを開きます。

人間的であれば

 作家は、理屈でなく、体験と感性で作品を創ります。例えば石川達三の「生きてゐる兵隊」(1938年)は南京陥落直後の中国に入り戦争の実相を描いた小説です。反戦小説ではないのですが、これを読めば、その人が人間的である限り、戦争はだめだとなる。発禁処分にされたのは、国が文学の力を恐れたからです。

 私が師と仰ぐ加賀乙彦さんは「フィクションでなければ描けない真実がある」と言っています。作家の目と言葉の力で今の現実を子細に描く、それを徹底的にやれば権力を揺るがす大きな力を持つと思います。

 今、憲法に関わる問題を避け、排除する空気が、ことに役所や大手メディアに充満しています。ペンの力でその空気を打ち破っていきたい。

 聞き手・写真 西沢亨子


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