2018年9月26日(水)
主張
石綿大阪高裁判決
国は被害者救済を決断せよ
建設現場でアスベスト(石綿)の粉じんを吸い込み、肺がんや中皮腫、石綿肺になった大阪府や兵庫県の建設作業員と遺族などが、国と建材メーカーに損害賠償を求めた「大阪訴訟」の控訴審で、大阪高裁は国とメーカーに賠償を命じました。建設アスベストをめぐる訴訟の判決は、これで11(地裁7、高裁4)となります。その中で10回連続して国の責任を認める判断が示されたことは重要です。国と建材メーカーは全ての被害者救済を決断すべきです。
警告やマスク義務怠る
大阪高裁判決は、被害防止を怠ってきた国の違法性をきびしくただしました。判決は一審に続き、国は遅くとも1975年には建設現場でのアスベストの危険性を認識していたと指摘しました。警告表示(掲示)や労働者の防じんマスク着用を、事業者に義務付けなかった国の責任をあらためて明確にしたかたちです。
判決は、最も大量に使用された白石綿を含む全てのアスベスト建材の製造・使用を禁止する措置をとるべきであった時期を、一審判決よりも4年早い91年に前倒しし、救済範囲を広げました。国の責任割合を従来の3分の1から2分の1に引き上げました。国の対策の遅れを断罪したものといえます。
建材メーカーについては、国の責任のみを認めた一審判決を変更し、被害を起こした当時、一定以上の市場占有率を持っていたメーカーの責任を認めました。建材に警告表示をしなかったメーカーの責任を、被害に応じて具体的に明確にして問う司法の判断は流れになりつつあります。アスベストの危険性を認識しながら利益追求を優先し、警告表示をせずに製造・使用を続けた違法性は全てのメーカーに共通しています。その責任は免れません。
各地の原告団には建設労働者とともに、被害を受けたいわゆる「一人親方」が多数加わっています。判決はこうした個人事業主を救済する道筋を確かなものにしました。一審では「労働者には当たらない」として一人親方の救済を認めなかったのに対し、高裁判決は、一人親方が労働者と同様に建築現場で働きアスベスト被害を受けた実態にもとづき、国家賠償法第1条の保護範囲に含まれるとして国の責任を認めました。3月の「首都圏訴訟」の東京高裁判決、8月の「京都訴訟」の大阪高裁判決に続くものであり、一人親方救済を国に迫る司法判断は揺るがないものとなってきました。
和解を拒み、裁判を長期化させている国と建材メーカーの道理のなさはいよいよ明らかです。
命あるうちに救済を
建設アスベストの被害者の救済は急がれます。「大阪訴訟」でも提訴から7年余りが経過し、被害者19人のうちすでに13人が亡くなっています。全国の訴訟も同様です。「命あるうちに救済を」という原告らの願いは切実です。これ以上解決の先延ばしは許されません。
原告団・弁護団は「建設作業従事者にかかる石綿被害者補償基金制度」の創設を求めています。直ちに着手すべきです。その際、「国の住宅政策で石綿を含む建材が普及した」という判決の指摘を十分踏まえて、国とメーカーは被害者に対して共同の責任を果たすことが必要です。