2018年9月15日(土)
安倍外交 大破たん
“無条件の日ロ平和条約”に反論なし
「領土」全面放棄の危険
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ロシアのウラジオストクで行われた「東方経済フォーラム」(12日)でプーチン大統領が前提条件なしの平和条約締結を呼びかけたのに対し、何の反論もしないまま帰国した安倍晋三首相。国境線を画定しないままの「前提条件なしの平和条約締結」となれば、千島列島の返還という日本の領土要求の全面放棄になりかねません。安倍外交の大破綻です。
プーチン大統領に屈服へ
安倍首相がプーチン大統領に何の異論も示さなかったことに対し、「外交的大失態」との厳しい批判・疑問が噴き出す中、安倍首相は13日、「プーチン氏の平和条約への意欲の表れ」と称賛するかのようなコメントを発表。14日の日本記者クラブでの自民党総裁選候補者の討論で「今年11、12月の首脳会談は重要になる」として、年内に日ロ首脳会談を開き、平和条約締結交渉に進む姿勢を示しました。関係者によると官邸周辺では、プーチン発言をとらえ「平和条約へ踏み出すチャンスだ」という無責任な議論が出されているといいます。
首相は記者クラブ討論で、「領土問題を解決し平和条約を締結する立場だ」と述べましたが、「前提条件なしで」というプーチン氏の提起に何の批判もないまま条約交渉に進めば、領土問題は解決どころか全面屈服の結果になりかねません。
元外務省高官の一人は「平和条約と言えばよいことのようだが、前提条件なしという条件でこれをやれば、領土問題は全部終わりだ」と指摘。「プーチン大統領は、安倍首相に国内世論向けの狙いがあることを見透かしている。相手に隙を見せ、つけこまれている。危険だし非常に不愉快だ」と語ります。
「新しいアプローチ」が招く
今回の事態の背景には、安倍首相が2016年12月の日ロ首脳会談に向けてプーチン大統領に働きかけた「新しいアプローチ」があります。
安倍首相は、国後・択捉・歯舞・色丹の「北方四島」で「共同経済活動」を行うことで合意したことを「新しいアプローチ」と称し、「手応えを強く感じとることができた」(16年12月)と表明。首脳間の「信頼」醸成と日ロの「経済協力」が、一向に進展しない領土問題の解決に向けた一歩になるとアピールしました。
日ロ首脳会談で、「共同経済活動」の具体化として海産物の共同養殖やクルーズ船を使った観光など5項目が具体化されました。しかし、平和条約締結や領土問題についての具体的な進展はまったくありませんでした。それどころか、「共同経済活動」が進んでいけば、4島へのロシアの政治的経済的統治が強まっていき、いよいよ領土問題の解決は困難になる可能性があります。
今回の動きでも、平和条約締結へ向けて大規模な経済協力の提示の準備が必要となるとの報道もあります。
元島民らからも懸念の声が上がっています。千島歯舞諸島居住者連盟の脇紀美夫理事長は「経済活動だけが進んで、ロシアに寄りそってばかりになるのでは」(衆院沖縄北方特別委員会、17年6月)と述べています。
「領土問題は存在しない」とするプーチン大統領に対し領土問題に触れないでアプローチすれば、領土問題の解決がいっそう遠のくことは明らかです。その破綻が、今回のプーチン大統領の発言ではっきりしました。
戦後処理見直しと道理ある外交を
日本とロシアの領土問題の根本には、第2次世界大戦の戦後処理の不公正と、それを正すことができない歴代日本政府の道理ない外交政策があります。
旧ソ連のスターリンは、大西洋憲章(1941年)とカイロ宣言(43年)で確認された「領土不拡大」という戦後処理の大原則を破り、ヤルタ秘密協定(45年)で「千島列島の引き渡し」を要求。米英側がこれに応じて協定に書き込み、その延長線上で日本政府はサンフランシスコ講和条約(51年)で「千島列島の放棄」を宣言しました。
ところが自民党政権は、戦後処理の不公正にメスを入れないまま、サ条約を不動の前提として「南千島は千島にあらず。だから返還せよ」と主張してきました。
「南千島は千島にあらず」との主張は、55年に米国の入れ知恵で突然始まったものですが、歴史的にも国際法的にも通用しない主張です。今日までの領土交渉でもその破綻は明らかです。
領土問題を根本的に解決するためには、サ条約の千島関連条項を廃棄・無効化し、国際法と歴史的事実に基づいて道理ある解決を目指し、本腰を入れた国際交渉が必要です。一度結んだ条約でも国際法と民主主義の道理にてらして問題があれば、それを是正することはできます。
スターリンが第2次世界大戦時に不当に行ったバルト3国の併合、ポーランドの一部地域の併合はほとんどが解決しており、千島列島だけが未解決で残されています。
千島返還を要求する国際法上の立場を確立して、全面返還を内容とする平和条約締結の交渉を行うべきです。